2007年02月11日

2月11日物語U : 頭脳戦


ほとんどの私立中学は土曜も授業があり、日曜と祭日しか休みがありません。
世間では、三連休でも、彼らはいつも二連休。 お弁当を作る母親も同じく。 
やっと嬉し楽しの二連休で、空くんも海ちゃんも友達と十時に待ち合わせて遊びます。

女子中の一年生の海ちゃんは、荻窪で待ち合わせです。
まずファミレスで食べ物とドリンクバーを注文して、みんなで二時間くらい集中して、休日だからといって大量に出された宿題を片付けます。
それから駅ビルの屋上で 「凍り鬼」という鬼ごっこをして遊ぶんだそうです。
走るのは禁止というルールだから、人の迷惑にならないから大丈夫と言うのですが。 
今日は、親子連れで来ている小さな子達の相手もして遊んだそうです。

さて、男子中の三年生の空くんは、さすが中三ともなると、もっと高度な遊びとなります。
吉祥寺の、平日でも買い物客でごった返している某商業ビルの三階から上の部分の階を使っての鬼ごっこです。 (高度・・?)

え!! あそこで鬼ごっこ!?  
あの、絵画だの編物だの縫い物だの工作だの模型だの、
趣味のための用品や道具を売っているあそこ?
それはまずいんじゃないの?

大丈夫だよ、きちんとルールがあって、決して、店にも他の買い物客にも迷惑にならないし、俺たちが鬼ごっこをしているなんて、今まで誰にも気づかれたことないから。

いままで? 初めてじゃないんだ・・。 で、そのルールとは?

エレベーター、エスカレーターは使わない。 
トイレには隠れない。
絶対、走らない。
絶対、大声を出さない。
絶対、はしゃがない。 静かにゲームを遂行して楽しむ。

三階から上の部分を使って、買い物客に紛れて潜んでいるメンバーを鬼が探し出すそうです。
捕まったら鬼はチェンジ。
鬼になったひとは、きっかり一分そこでおとなしくしてから動きだす約束。
他の逃げているメンバーは、いま、誰が鬼になっているかわからないところがミソで。

つい、うっかり鉄道模型のコーナーで夢中になって商品を眺めている友人に、
にこやかに 「よっ!」と近寄って、 
「この、模型、いいよなー」 「あれ、おまえも鉄道、好きだったっけ?」 
「うん、まあな。 おまえ、まだ一度も捕まってない?」
「そんなドジ踏むかよー」 「だよなー、あっははっ」 
「いま、誰が、鬼になってるのかな?」 
「すまん、実は、俺なんだ」 ぽん、と肩を叩いたりするそうで。

・・おもしろそう。

母親は子供のこうゆう行為は止めなくてはいけないのでしょうか。 
すっごく楽しそう! と思ってしまいました。 
しかし、なんとも無邪気な君たち。
鬼ごっこのあとは、ケビン・コスナー主演の「守護神」という映画を観に行ったそうです。


オンライン書店ビーケーワン:Death note 1

Death note 1
大場 つぐみ原作 / 小畑 健漫画  2004.8  集英社


空くんと海ちゃんがお小遣いを出し合って、一冊づつ増やしていく 「DEATH NOTE」
映画を観て、夜神月(やがみらいと)と、L(える)と、死神リュークのキャラクターが興味深かったので、私もふたりに借りて読んでます。

小畑健さんは、デザインの勉強もきっちりしている人なのか、人物以外の背景や小道具もすごく丁寧に描かれてあって、こうゆうの好きだなあ。

いま、10巻め。12巻まであるのかな。 その他にいろいろ解読本とかもあるらしい。
解読本・・。 難しいんです、この漫画。 頭脳と頭脳の戦い。
裏の裏を読み、さらにその裏をかこうと画策し、ボロを出させようとさらに裏の裏の裏を読んで、その裏の裏の裏の裏の裏を・・・。
途中で何度も頭が混乱して、 これをさくさくっと理解して読んでいけない私はちょっと知能が足りない? と不安になり子供たちに聞くと、 「いやあ、これは、確かに脳を酷使するよ」 という返事だったので、安心したしだいです。 

                 オンライン書店ビーケーワン:Death note 3

                 Death note 3

オンライン書店ビーケーワン:Death note 5

Death note 5

でも、キラとエルの対決が終わってしまった第7巻よりあとは、私にはほとんどおもしろくないです。  
エルのいないデスノートなんて〜!!
posted by tsukikohime at 22:32| Comment(4) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月14日

5月14日物語 : おひざのうえで


オンライン書店ビーケーワン:バムとケロのにちようび  バムとケロのにちようび

オンライン書店ビーケーワン:バムとケロのそらのたび  バムとケロのそらのたび

オンライン書店ビーケーワン:バムとケロのさむいあさ  バムとケロのさむいあさ  島田 ゆか作 絵

子供がほんの小さい頃、 生まれてすぐから絵本を毎日読み聞かせていて、 一日に20冊、30冊は読んでいたと思う。 
こどもって同じ絵本を何十回読んでもちっとも飽きなくて、でも読むほうは飽きてしまうので週に一度くらいは図書館に行ってたくさんの絵本を借りてきます。
たまには買っていたけれど、いつの間にかどんどか増えていってとてもとても置くところが足りない。
それで、欲しいー! と思うのがあってもできるだけがまんがまん。 定期に買う 「こどものとも」の年少版や年中版、年長版 以外は(できるだけ)がまんがまん。
でも、どうしてもこれは欲しかった、 がまんできなかった。 はい、私がです。

このシリーズ、 メインのキャラクターはもちろん、他のこまごまと隠れているものがとてもかわいい。  キャラクターたちが住んでいる家のインテリアも愛らしくて、 ページをめくる度に、 あら、こんなところにこんなものが・・と発見があって楽しいのです。 バムとケロの進行するストーリー以外にもページの隅っこのどこかで別の小さな生き物の別のストーリーが進んでいて、そちらも追っていく楽しさがあります。  この絵本、 ひとりで見るよりも子どもたちといっしょに 「ほらほらこれ」 「あれー、こんなところにこんなの居たの、知ってたー?」 なんてかわいい物(者)探しするのが楽しみでした。

今でも私がひとりで開いていると、中1の娘も中3の息子も隣にきて覗き込んでいます。

他の絵本でも、 まさか中学生が見るとは思わないかもしれませんが、 棚に置いてあるのをたまにすっと取り出して読んで(眺めて)たりします。  どんなココロモチになっているのかな。

今日、 海ちゃんと空くんが、 ケーキと鉢植えのカーネーションとアボガドとおせんべいをプレゼントしてくれました。 
うれしや。

お礼に絵本の読み聞かせなんぞ久しぶりにしてしまいました。
もう、ひとつのおひざににひとりずつのっけてあげれませんでしたけれどね。 


DVC00120.JPG
posted by tsukikohime at 23:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月23日

12月23日物語 : 宝物


おむすびをつくりましょう。

空くんの小さなお茶碗にごはんを半分入れまして。

すっぱい梅干しをひとつ入れました。

ほぐした焼き鮭も入れてください。

塩昆布も入りたいと言ってきたので入れてあげました。

するとタラコがあたしもおむすびに入りたいと言いました。  

もちろんタラコも入れました。

めんたいこが隣でぷーっとほっぺをふくらませています。

いらっしゃい、 あなたもごはんの上にお乗りなさい。

やあ、遅くなっちゃった、僕も入るよと牛肉の佃煮がずんずんご飯の上に乗りました。

おかかが黙ってそのあとに続きました。

イクラがゆっくりやってきてみんなは黙って見てましたがちっともあわてずそっとごはんの上に乗りました。

葉唐辛子は走ってやってきました。  イクラはそっとからだをずらし、場所を少し空けました。


最後にほかほかごはんをふわっと乗せ、 塩をぱらぱらふりまして、きゅっきゅっきゅとおむすびをにぎります。
  

さあ、 空くん、 召し上がれ。  空くんは小さなお口でひとくちでぱくっと食べてしまいました!

きゃっきゃらきゃらきゃらと空が笑う。



「ねえねえ、海にも。 海はサンドイッチがいいな。」

サンドイッチをつくりましょう。

まずはバターを塗りましょうね。

レタスを敷いてあげましょう。

それからスライスチーズを乗せまして。

ハムは双子みたいに仲良くやってきたので2枚とも乗せました。

ゆで卵に刻んだピクルスとマヨネーズを混ぜたものもふわっと乗せました。

薄焼き玉子がうらやましそうにしていたので、どうぞと声を掛けました。

薄焼き玉子は恥ずかしそうに、 ケチャップもかけてくださいなと言いました。

きゅうりは6枚手をつないでやってきて黙ってその上に乗りました。

トンカツがゆっくりとした足取りでやってきて ソースとマスタードもよろしくなと言いました。

クレソンがあわてた様子で飛び乗りました。

トマトは何も言わずに乗りました。

マーマレードがわたしもいいかしら? と聞きました。

トマトはふんと横を向いたけど、 チーズが僕のそばにおいでよと言いました。

バターを塗ったパンを最後に乗せました。


さあ、 海ちゃん、 召し上がれ。 海ちゃんは小さなお口でぱくっとひとくちで食べてしまいました!

もっともっとと海が手を叩いて笑う。



「あれってパクリだよな。」

「なあに?」

「昔、 おかあさんが話してくれたおむすびやサンドイッチの話。」

「ああ・・」 ふふっ。

「これ。」 空は てぶくろ という本の表紙を私に見せた。

単行本の小説の棚の隣には絵本用の本棚があって、 12歳の海も14歳の空もほんのたまに取り出して眺めている。

「絵本って、そういう繰り返しのお話が多いのよね。」

「子供ごころにも在りえないってわかってたんだけどさ。」

「でも小さなあなたたちは、 お母さんの話も突拍子もないへんてこりんな絵本の話も大好きだったわよね。」

「てぶくろの中にねずみや蛙やうさぎやキツネやオオカミが入っていくんだもんな。」

「いのししも」 と海が言う。

「熊が来たときはどきどきしたでしょ?」

「そうだったかなあ・・」


「”絵本の時間” は、お母さんにも子供にも宝物。」

「ありがとう。」 ふたりはぺこっと頭を下げた。

目をまんまるくして乗り出して、 ほっぺつやつやで聞いてくれていた幼いふたりの顔。

「どういたしまして。 こちらこそ、ありがとう。」


オンライン書店ビーケーワン:てぶくろ てぶくろ エウゲーニー・M・ラチョフえ / うちだ りさこやく 福音館書店
posted by tsukikohime at 23:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月19日

9月18日物語 : 中秋の名月ですね


「つきこちゃん、 こんなところで寝ちゃだめよ。」

「んー。 うさぎさん、来たの?」

「来なかったねえ・・」

「寝てる間に来ちゃったかもしれない。」

でも黄色い風船は、あたりになかった。

「まだ、起きてる。」

「だめよ、もうお布団に入りなさい。」

母がガラス窓を閉めた。

「だめ! 閉めないで。」

「虫が入ってきちゃうわよ。」

「じゃ、障子を開けたまま寝てもいい?」

子供部屋の明かりを消して母が部屋を出て行くと、私は布団を窓のそばに引き寄せた。

夕方見たときは左のほうにあったのに今は真ん中近くに来ている。 その上、高くなってしまったので窓のそばに寄らないとちゃんと月が見えないのだ。 

ガラス窓が閉まっていると、うさぎが私を見つけにくいだろうと思い、そっと窓を開けた。

先に寝ていた兄が 「うーん・・」と唸って寝返りを打つ。


翌朝、 私はがっかりしていた。 とてもとてもがっかりしていた。  
熱を出すほどがっかりした。

風船は戻ってこなかったのだ。



「あっ!」

「大丈夫!?」

母とデパートに行った帰り道、 もう少しで家に着くというところで私は派手に転んでしまった。

母はすぐにしゃがみこんで私の身体を点検しようとする。

「お母様、つきこの風船は?」 痛さで涙が出てきた。

「あ、膝から血が出てるわ。 ほら拭いてあげるから。 立てる?」

「風船は? 風船は?」

空を見上げるとさっきまで手にしっかり握っていたはずの黄色い風船がすーっと天を目指して登って行くのが見えた。

「早く、早くつかまえて。」

母はしゃがんだままの姿勢で空を見上げた。

「もう取れないわよ。 ほら、ここ拭かなきゃ、 あら、手の平からも血が出て・・」

「間に合うから、ほら! 早く! ねえ!」

母は仕方ないといった顔で立ち上がると天に向かって手を伸ばして見せた。

「届かないわ。」

痛い膝をがまんして私も立ち上がった。  私よりずっと背の高い大人なら届くはずと思っていた風船は辺りの林の木よりもずっと高いところでさらに上を上を目指して登って行っていた。

私は泣いた。 泣いて母のことをなじった。

どうして、先に風船をつかまえてくれなかったのかと。  膝や手の平の痛みが私を後押しするのか、声を限りに泣いた。

いつしか風船が小さくなり点になり夜の色に紛れて見えなくなってしまっても泣くことが止まらなかった。

引きずられるようにして家にたどり着くと、私のあまりの大きな泣き声を聞きつけた父が玄関の外に出て来た。

「どうした? 何があった?」

「つきこが転んで怪我しちゃったの。」  母は疲れた声で父に告げた。 

「ちがう、 怪我じゃない。」  私はまだしゃくりあげていた。

「怪我してるよ。 ほらお風呂場に行こう。」

父は私を抱きかかえて風呂場に連れて行き、暖かいお湯に湿らせたタオルで傷口を拭いてくれた。

「汚れを落としたらたいしたことはないじゃないか。 そんなに泣くな。」

「痛くて泣いてるんじゃないもん。」

夕食になってもまだ涙が止まらず、しゃくりあげている為にご飯も上手に食べれなかった。

母から事情を聞いた父は、私を縁側に呼んだ。

縁側には籐で出来た大きな椅子があり、そこでいつも父は煙草を吸うのだ。

私は父に言われるまま父の膝の上に乗った。

「お母様はひどい。 どうして風船を取ってくれなかったの?」

「風船より つきこの怪我が心配だったからだよ。」

「でもすぐ取れば間に合ったのに。 最初に 『風船!』 って言った時、すぐ手を伸ばせば間に合ったのに。」

「それでも つきこが泣いてるから、心配してつきこのことしか頭になかったんだろう。」

「つきこが泣いたのは、痛くて泣いたんじゃないもん。 風船が手から離れて飛んでいったから泣いたの。 どうしてわからないの?」

「お母さんには つきこしか見えなかったんだよ。」

どうしても納得がいかなかった。  わざと取らなかったように、母が意地悪したかのように幼い私には思えたのだ。

頭の上で ふーっという父のため息が聞こえた。  私が納得していないのをよくわかっているのだ。

「あの風船はどこに行っちゃったの?」

「ん? 風船か。 風船はお月様のところに行ったんだよ。」

「え? そうなの?」

「うん、 そうだよ。」 父はなぜか嬉しそうに言った。

「で、どうなるの? お月様のところに行ってどうなるの?」

「それはね、 お月様に住んでるうさぎさんのところに届くんだよ。」

私はがっかりした。  うさぎさんのものになっちゃうのか。

「でも、つきこの風船だよ。 うさぎさんはつきこの風船だってわかるの?」

「うん、 きっとわかるさ。」

「どうしてわかるの?」

「つきこの匂いがするからかな。」

「転んで風船を飛ばしちゃった子供はいっぱいいるかな・・」

「いっぱいいるよ。世界中にね。」

子供心にも父が先ほどと違ってとても楽しそうに話をしているのがわかった。

「そんなにいっぱい持っててどうするの? うさぎさんは持ちきれないよ。 ねえ、返してくれないのかな。 そんなにいっぱい欲張りだよ。」

「そうだねえ、欲張りだね。」

「うさぎさんは、悪者?」

「そんなことないさ、 実はね・・」

父は私を抱き上げるとくるっと回して自分のほうに向かわせて座りなおさせた。

そして大事な秘密を告白するかのように、ゆっくりと言った。

「いい子にしている子だけに、返してくれるんだ。」

なんて素晴らしい話なの!  どうして父はすぐに教えてくれなかったのだろう!

「え、そうなの? そうなの? 本当に!?」

「うん、そうだよ。 だから つきこもさっきみたいにいつまでも泣いてお母さんを困らせたりすると、いけないよ。」

「いつ?いつ? どうやってつきこがいい子にしてるかわかるの? 誰が見ているの? いつ返してくれるの?」

「うさぎさんたちが見てるんだよ。 つきこちゃんはいい子にしてるかなー、 お母さんやお父さんにわがままは言ってないかなー、 お菓子のツマミ食いはしていないかなー、 お友達と仲良くしてるかな、 お勉強はちゃんとしてるかな、 お兄ちゃんと喧嘩はしていないかな。 泣き虫さんはなおったかなーって、ね。」

父はたて続けに 悪い子の例を挙げた。

「全部、見てるの?」

「全部だよ。」

「いい子にする!  いつ返してくれるの?」

笑っていた父がふと考える顔つきになって言った。

「それはね、うん、十五夜の日だよ。 すすきやお団子をお供えする日があるだろう? あの日に持ってきてくれるんだ。」

「十五夜っていつなの?」

「もうすぐだね。 9月の終わり頃だよ。」

「つきこ、いい子にする! いい子になる!」

「じゃ・・」  父は私を抱き下ろすと言った。

「もう、寝なさい。 夜更かしするのもいい子じゃないからね。」

「はーい、寝ます!  お父様、おやすみなさい。」 私はいつもより深く頭を下げて父に挨拶をした。 

父はほーっと深いため息を付き 「おやすみ」 というふうに手をあげた。


それから約2ヶ月ばかりだったと思う。 その間、 私は天使のようにいい子だった。

兄には絶対逆らわず、母に頼まれた用事はなんでもやり進んでお手伝いもした。 ひらがなの勉強もカタカナの勉強も簡単な足し算の勉強までした。  そして、言葉使いもきちんとし、 どんなにおもしろいテレビ番組の最中だろうが父が帰って来ると玄関にお出迎えに行った。 日曜日には父の靴を磨き、玄関の掃除もした。 そして毎夜月を見るのだ。 月が、月のうさぎたちが私を見ているかどうか確認するのだ。

私は 夕方 誇らしげに月の下に立つ。  どうぞ見てください。 良い子のつきこを見てください。


だけど、風船は戻ってこなかった。

私は本当にがっかりした。 

あんなに一生懸命いい子をしていたのに、どうしてなんだろう。
かなり 疲れた。  今日まで頑張ったのに。 すごく疲れた。  

その夜は、眠りに落ちるまで約束を破った月のうさぎのことを怒っていた。
翌日私は熱を出してしまった。  そして熱の中で 気が付いた。  それはわりとすぐに気が付いた。

とてもとても恥ずかしいことを。


本当には良い子ではなかったことを 月は知っていたのだ。

兄に貸した大事な消しゴムが二つに割れて戻ってきた時、 心の中で 「お兄ちゃんのばか!」と言ったのを聞かれてしまったのだ。 
母に買い物を頼まれた時、すごく面倒くさくて とてもとても小さな声で 「いやだな・・」とつぶやいてしまったのを聞かれていたのだ。
まりこちゃんに貸した いたずらきかんしゃちゅうちゅうの本の間にたくさんのビスケットのかすがはさまっていて染みが出来ているのを発見した時、 「もう二度とまりこちゃんなんかに本を貸さない!」 と思ったことを知られていたのだ。
前の晩にこっそり私が窓を開けたままにしてお兄ちゃんがいっぱい蚊にさされたことも 見られてしまったのだ。

思い出せば思い出すほどいっぱい出てくる。 もう限りなく出てくる。

だめだ・・ つきこはこころのすみからすみまで良い子になることはできない。

恥ずかしさでいっぱいになり、身体中がぽっぽと熱いのは、熱のせいだけではなかった。



自分が親になって思った。
子供が小さいうちは、 空想話はいっぱい聞かせよう。 夢のようなおはなしをいっぱい聞かせよう。 現実と夢の境目がわからない物語をいっぱい読んであげよう。

でもそこに ”教訓” や ”しつけ” や ”おどし” を 入れてはいけない。

巷に溢れている絵本の中には なんと 大人の都合で書かれた オハナシの多いことか。

おかげで子供が2歳になるころには ”絵本博士”と呼ばれてもいいくらいに 詳しくなりました。

だから先日、五味太郎 の 大人問題 を コメント欄で薦めてくれた男の子の気持ち、少しはわかります。

うちの父・・・、 悪気はなかったんでしょうがね。  

この年になっても忘れないってことはけっこうトラウマだったのね。

オンライン書店ビーケーワン:いたずらきかんしゃちゅうちゅういたずらきかんしゃちゅうちゅうバージニア・リー・バートンぶん え / むらおか はなこやく1980福音館書店
posted by tsukikohime at 01:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月12日

9月12日物語 : 緑色のどんぐり


きのうの午後。

台所仕事の手元が暗くなってきた。  風が雨のお知らせをしてくれる。 

洗濯物をいったん取り込みエプロンをはずす。

「投票に行って来るね。 すぐ帰って来るからお留守番よろしくね。」

「海も行く! ちょっと待ってて。」

玄関の外に出て待っていると、時折り風に飛ばされた噴水の水しぶきのような雨が 顔に当たる。

家の中は蒸していたので 本格的な雨の前触れの風とともに気持ちがいい。

「お母さん、行こう。」

「あら、本まで持ってきたの? 投票所はすぐそこなのに読む暇なんてないわよ。」

「もしもの時の為に。」

海は お財布と携帯と本を見せる。

「もしもの時もなにも 行って投票して帰るまで10分もかからないと思うけどな。」

「早く、行こう。」

「うん。 風が吹いてきたね。 ほら林の木があんなに揺れてる。」

「雨、気持ちいいね。」

投票所に向かう道をまばらに歩いている人たちはまだ誰も傘をさしていないし、手に持っている人も居ない。

林の横の道に どんぐりがいっぱい転がっている。

「この間の台風のせいかな、 今吹いている風のせいかな。」

「まだ、緑色してる。」

落ちているどんぐりを拾い上げると みんな緑色で 帽子をかぶっている。

「ね、なかなか脱げない。 しっかりくっついちゃってる、この帽子。」

「お母さん、だめ! 帽子を取っちゃだめだよ。」

「どうして?」

「あの高いところから落ちても取れなかった帽子だよ。」

「うん。」

「どうして取ろうと思ったの?」

「茶色のどんぐりの帽子が脱げたところって緑色してるでしょ。 まだ緑色のどんぐりの帽子を取ると何色かな? って見てみたかったの。」

「・・・。」

「ね、ちょっと見てみたいでしょ?」

「ひとつだけね。」

「じゃ、帰りにね。」

海は ひとつだけ 拾うとポケットに入れた。 

私は みっつ拾ってしまったどんぐりとはがきを左手に持ち、右手を海とつないで投票所に向かった。

「ごくろうさまです。」

「こんにちは。 ごくろうさまです。」

投票所になっている中学校の下駄箱のところに男の人がひとりしゃがんで靴を脱ごうとしているのを見て係りの人が、

「靴は脱がなくていいんですよ。 土足でどうぞ。」 と声をかけている。

声をかけられた男の人は、無言で靴を履きなおしている。

すごい色の靴。  空が雨の日に陸上の部活で走ってきた時だってもう少しましだ。

空の汚してきた運動靴は、洗えばどうにかなるだろうという未来が見える靴だが、 この男の人の靴には重たい過去が見えた。

もとは白いTシャツだったのだろうか、泥水で煮たような色のシャツにはあちこち破れがあり、スポンは、もともとはグレーだったのかカーキ色だったのか・・・。
シャツもズポンも薄い生地なのに、汚れで重さが増したかのように伸びている。

野球帽の下からは、灰色の長めの髪が見えた。

彼には住所があり、何日か前に届いたハガキをどこか紛失しにくい場所に保管して、 今朝目覚め、食事をとり、 それを持ってここに来たのだ。

出口のところで係りの人達がまた 「ご苦労様でした。」 と 挨拶をしてくれる。 



「林に寄るんでしょ?」

「うん。」

これは くぬぎ ではなくて こなら のどんぐりかな。

「おかあさん、そんなに拾ってどうするの?」

小さい頃、たくさん拾ってお菓子の空き箱に入れておいたら虫がいっぱい出てきたという恐怖の体験をしている海はもう 「持って帰ろう」とは言い出さない。

「道路側に落ちているのを 林のほうに運ぼうかなあ。」

先ほどの男の人が 片足をひきずりながら 私たちの横をゆっくりと通り過ぎる。

「車に轢かれないように?」

「まあね。」

そんなにたくさんは落ちていないと思っていたけど、あっという間に片手がいっぱいになる。

海もせっせと運んでいる。

「一箇所にまとめて どんぐり塚にしようか?」

何度目かに運んだ時、 そばに海の気配がしないので辺りを見回した。

海は 林の中のベンチに座って本を読んでいる。

「うーみー!」

「さっきより雨が降ってきたんだもん。」

「じゃ、家に帰ろうか?」

「林の中はまだ平気だよ。」

本当ね。 たくさんの葉が重なりあって 天然の大きな傘になっている。

私もベンチに腰掛けた。

投票を終えた人達が小走りで通っていくのをしばらく眺めていた。

「涼しくていい気持ちね。」

返事なし。

「ねえ、何読んでるの?」

海が心持ち 本を高くあげた。  私は 海の前に回ってしゃがんで表紙を見た。

五味太郎 の 大人問題

副題として、
         は
     おとな が もんだい
         の

                 と、ありました。

ここのブログにコメントをくれた高校2年の男の子が薦めてくれた本です。 
ありがとう、読めて良かったです。

 オンライン書店ビーケーワン:大人問題大人問題 五味\郎〔著〕
posted by tsukikohime at 18:51| Comment(2) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月24日

8月24日物語 : ぞうのうんち


みちひろくんはいつもにこにこ笑っていた。 笑っている顔しか覚えてない。 
もしかしたら、 にこにこ顔が素顔なのかもしれない。

みちひろくんは、(みち)が名前の一部に入っている子の誰しもが背負う運命で、あの歌を歌われる。

「みっちゃん、みちみち ○○○して、 紙がないから手でふいて、もったいないからなめちゃった。」

みちひろくんは、この歌を歌われても、にこにこしている。
にこにこしながら、自分も一緒に歌うのだ。

みちひろくんは、 授業中いつもノートに一生懸命、絵を描いていた。
 
机にうつ伏しているように見えるので、最初は寝ているのかなと思った。
でも、よく見ると右の肩が動いている。
彼の左ななめふたつ後ろに座っている私からは、何をしているのか分からない。

みんなで声をそろえて国語の教科書を音読している時も、 算数のプリントを配られて計算問題を解いている時も、 先生が黒板に書いたことについて説明し、全員が黒板のほうに顔を向けている時も、顔を下に向けたまま夢中で鉛筆を動かしている。

初めてその姿を目撃した時は、 「先生に見つかったら怒られちゃう。」 と はらはらしたが、 先生は時々みちひろくんのことをちらっと見るのに、 壁に貼ってある(5年生の漢字表)を見ているのと変わらない目の色のまま、すっと視線を他に移し授業を進める。

他の子がふざけたり、 私がずーっと窓の外の雲の動きを見ていたりすると注意されるのに。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、 日直当番が 「起立!」と叫ぶ。
みんなはがたがたと席を立って 当番の声に習う。
みちひろくんも席を立って みんなと一緒に 「礼」をする。

休み時間にみちひろくんのところに行った。

「何、描いてるの?」

みちひろくんは、茶色のくりくりの目を大きく開いて、ちょっとびっくりしたような感じだったけど、 やっぱりにこにこ顔のままで彼のノートを見せてくれた。 

象の絵が描いてあった。

「うわー、すごい。 他のページも見てもいい?」

「うん!」

どのページにも、動物の絵が描いてあった。
ほとんどが犬か猫かすずめを描いた絵なのだが、後半は象ばかりだった。

みちひろくんの絵は、 私や友達が描くような絵とは全然違って、とても大人っぽい絵だった。
漫画っぽくなくて、本物の動物みたいだった。 

「みっちゃん、みちみち・・・」 などと歌われていたが、 仲間はずれにされたりしているわけではなく、他の男の子たちと一緒に校庭を走り回っている姿もよくみかけた。


誰かのお誕生日会に呼ばれた時に、みちひろくんもそこに居た。

プレゼントをあげたり、 その子のお母さんの作ってくれたごちそうを食べたり、みんなでゲームをしたり、ケーキやお菓子を食べたり。
その時、コカコーラが出された。

私は、コカコーラの炭酸が苦手で飲めないのだ。
それは、恥ずかしい事だった。 
コカコーラをぐびぐびっと飲めるのは、5年生なのだから当たり前なのだ。 1年生や2年生のチビとは、わけが違う。 小さいビンに入ったコカコーラくらいぐびぐびっと飲めないのはまだガキだと見なされる。

みんなはお互い友達の顔をちらちら見ながら、ぐびぐびぐびっと飲んでみせる。 

ぐびぐびぐび、ぱあーっと息をつく。

どうしよう・・・、 私は、ビンに口につけてひとくち飲んだ。 
口の中に液体が流れ込み、味としては、おいしいと思うのだがそれをまっすぐ喉に落とせない。
口の中の液体をほぐすようにしながらすこしづつ喉に落としていく。
こんなに時間がかかっていては、みんなにばれてしまう。

その時、「おーー!」っと、歓声が上がった。

みんなが注目しているほうを見ると、みちひろくんがコーラのビンを口につけたまま、天を仰いでいる。

ぐびぐびぐびぐびぐび。 ビンの底に残っている液体は、あとわずか。 ぐびぐび・・ぷふぁ−。

「わー、すげ−!」

みちひろくんは、一回も顔を正面に向けることなくコーラを一本、一気飲みしたのだ。

みちひろくんが飲み終わるのが合図だったかのように、誰かが言った。

「外に遊びに行こうぜー。」

みんなはだーっと駆け出して行ってしまった。

部屋にみちひろくんと私だけが取り残された。 
まるまる液体が残っているビンを持ったまま、ノルマを達成できていなかった私は外に駆け出す資格はないだろうとうなだれていた。

幸い、みんなはみちひろくんの一気飲みに気を取られていて、私のビンの中身が全然減っていないことに気付かなかったようだが、 誰かが戻ってくる前にどうにかして飲み干さなくてはならない。
多分、一本飲み干すのに30分とか一時間とか かかるだろう。

「飲んであげようか?」

みちひろくんがにこにこした顔で私の顔を覗き込む。

「え? いいの?」

「コーラ、大好きなんだ。」

みちひろくんは私からビンを受け取ると、ひといきで飲んでしまった。  

ぷふぁー!

それからテーブルを見渡すと、他の友達のビンを取った。

なあーんだ、 みんな、結構残しているじゃない。

全部飲みきった子は、みちひろくんの他はひとりだけで、 あとの人のビンには、半分とか三分の一くらいの黒い液体が残っている。

みちひろくんは、 「炭酸が抜けちゃうと、おいしくなくなっちゃうからね。」
とにこにこ顔で言って、みんなの残ったコーラをぐびぐびぐびぐびと全部飲んでしまった。

私は、みちひろくんを尊敬してしまった。 
みちひろくんは、本当はすごい大人なのかもしれない。


こんなこともあった。

国語の授業で、先生が嬉しそうに黒板の前に立ち、
「みちひろくん、前に出ていらっしゃい。」と言った。
いつものように机に覆い被さるように絵を描いていたみちひろくんは、名前を呼ばれて顔をあげた。

「みちひろくんが、素晴らしい詩を書いてきてくれました。」

へー、どんなのだろう。 
みんなもしーんとしている。

「さあ、みんなの前で読んで聞かせてあげましょう。」

みちひろくんは、いつものにこにこにちょっと照れくさそうな笑みも付け加えたような顔で、先生の横に立った。
そして、大きな声で 読み上げた。

「ぞうのうんち    XXX みちひろ」

みんながどーっと笑った。


  「ぞうはでっかい。  すんごくでっかい。 
   このあいだ動物園で はじめて見て びっくりした。
   でっかくて、びっくりした。
   ぼくはびっくりして ずーっと見ていた。
   ずーと見ていたら、
   でっかいぞうが でっかいうんちした。
   ぼとん ぼとん ぼとん
   でっかいぞうは でっかいうんちするんだな。
   ぼくも でっかくなって でっかいうんちをしてやるぞ 」

みんなは、ひーひー、笑っていた。
女の子たちは、きゃー! やだー! と 悲鳴あげていた。

でも私は、感動していた。 「みちひろくん、 やっぱりすごい!」


どういうイキサツでそうなったのか覚えてないのだが、夏休みに みちひろくんのお母さんが入院している病院にいっしょに行った事がある。 
病気だったのか、怪我だったのかは憶えていない。

入院しているお母さんのところに毎日行っているという行為がとってもおとなっぽくて、私はまたみちひろくんに感心してしまった。 

「毎日、お見舞いに行くの?」

「かあちゃん、俺が行くとすごく喜ぶんだ。  だから、毎日行くんだ。」


「お見舞いに行くなら、何かお花を買って行きなさい。」 と母に言われてお金をもらった。


「みちひろくん、 お見舞いにお花を持って行きたいんだけど、お花屋さんに寄ってくれる?」

「お花は、いらないよ。 コカコーラがいいよ。 コカコーラ持って行くとかあちゃん喜ぶんだ。」

入院している人が あの炭酸のきついコカコーラなんて飲むのだろうか、と不思議に思ったが、みちひろくんは、
「ぜったい、コカコーラ!」と譲らない。

私は花束を持って本を一冊小脇に抱えて病院にお見舞いに行く少女を想像していて、せっかく薄いみず色のかわいいワンピースを着てきたのになと、 ちょっとがっかりしてしまった。

本は、誰かにもらって2冊持っていた はなのすきなうし
を持ってきた。 幼稚園の時から持っている本で、幼いかなと思ったが、そこに描かれている絵がみちひろくんの描く動物に似ていたからだ。 みちひろくんにあげようと思って母には内緒で持ってきた。


母が持たせてくれたお金で、コカコーラを6本買った。

病室に入ると、本当にみちひろくんのお母さんがベッドに横になっていた。

私は、ドキドキしてしまった。  
友達のお母さんが入院してベッドに寝ている姿を見るのは、なんだか衝撃的だった。

「これ、つきちゃんが買ってくれたんだ。」

みちひろくんがコカコーラを見せると、
お母さんは、嬉しそうな顔をして、
「まあ、ありがとうございます。 良かったわね。 みちひろ。」と言った。

本当に嬉しそうな顔をするので、私は少しほっとした。
でも、こんな青白い顔をしてベッドに横たわっている人がコーラなんて飲めるのだろうか。


「じゃ、飲むね。」

とみちひろくんは言うと、
お母さんの枕もとの棚の引き出しをあけ、栓抜きを取り出し、しゅぽしゅぽしゅぽっと、6本とも栓を開けてしまった。

お母さんはベッドに横になったまま、にこにこしながらそんなみちひろくんを見ている。

何がなんだかわからないまま見ているうちに、
みちひろくんは、
ぐびぐびぐび、ぷはー!、 ぐびぐびぐび、ぷはー! と 6本全部、一気飲みしてしまったのだ。

びっくりして私はお母さんの顔を見た。
怒ってるんじゃないかと思ったのだ。
しかし、みちひろくんのお母さんは、さっきと変わらぬ嬉しそうな顔のまま、みちひろくんを見ていた。

「ん、じゃ、帰るから! また明日来るからな、かあちゃん。」

飲み終わると、みちひろくんは口元を袖で拭いながらドアのほうに歩いていった。 
私は、多分、挨拶なんてしないまま、みちひろくんを追いかけた。

「な、かあちゃん、すごく喜んでいただろう?」

びっくりしたけど、やっぱり、尊敬してしまった。  みちひろくんて、やっぱり、すごい。


夏休みが終わり、新学期が始まった。

教室にみちひろくんの姿はなかった。  何日たってもみちひろくんは、来ない。

「ね、みちひろくん、どうしたんだろうね。 病気かな?」

女子の輪の中でみんなに聞いてみた。

「えー、知らないのー?、 みちひろは、特別学級に行ったんだよ。」

「トクベツガッキュウって、何なの?」

「頭が悪い子が行く所。 うちの小学校には特別学級ってないから、 他の地区の小学校に転校したんだよ。」

「みちひろ、バカだもんねー。」

「絵ばっか、描いててさー。」

「バカだから、 いつも笑ってるんだよ。」

「ゾウのうんち、だもんねー」

「キャー! やだー、 きたなーい!」


私は、そっとみんなの傍を離れた。

みちひろくんは、すごい子なのに。 
毎日、お母さんのお見舞いに行くえらい子なのに。 
お母さんが一番喜ぶことを知っている やさしい子なのに。 
あんなかっこいい詩をみんなの前で堂々と読めるのに。
動物の絵がとても上手なのに。
コカコーラを6本一気飲みできるすごい子なのに。


最近、小学校の同窓会があって、その時何人かに聞いてみた。

「みちひろくんって、今どこに住んでいるか知っている?」

「誰? そんなやついたっけ?」

私が尋ねた同級生の中では、 誰も、みちひろくんのことを覚えている人は居なかった。


私は、はっきり覚えてる。

みちひろくんの にこにこ顔も。
みちひろくんのフルネームも言える。

そして、 (ぞうのうんち)の 詩 も。


はなのすきなうし
マンロー・リーフおはなし / ロバート・ローソンえ / 光吉 夏弥やく
岩波書店 (1980)
通常24時間以内に発送します。
posted by tsukikohime at 11:37| Comment(2) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月21日

8月20日物語 : 遺失物係り


今日の月を見ましたか? ここ数日の月ははっきりと美しい。 月は自ら光りを放つことが出来ない。 私達は時々そのことを忘れる。 忘れるほど、月は妖しく美しく輝く。 そして与えられた光を何十倍もの美しさに変えて惜しみなく私達のもとに届ける。 
 

りょうちゃんは学生時代の友人でした。 数人で遊ぶ時の仲間の中でみんなが公認している彼氏彼女はそれぞれちゃんと居たのですが、なぜか時々ふたりだけで会っていました。 
飲み会などの帰り道、りょうちゃんは、 「じゃー、またなー!」 と振った手をそのまま彼女の肩に回してりょうちゃんのアパートの方に帰って行くし、私はボーイフレンドと みんなの手前、照れくさくて繋げなかった手をしっかり繋いで夜の道を歩きます。
 
りょうちゃんのアパートで一緒にギターを弾いたり、レコードを聴いたり、本屋に行ったり、古着屋さんを見に行ったり、お鍋を買いに行ったり、畳の上で昼寝をしたり、電話で朝まで話したり。

仲間たちは私達がそんなふうに二人きりで会っていることは誰ひとり気付いていなかったし、もちろんお互いの交際していた相手にも知れてはいませんでした。

私達はまったく色っぽい関係ではありませんでした。 
キスもしたことないし、 そんな雰囲気にさえ一度もなったことはありませんでした。

でもお互いの交際相手との関係より親密でした。

どこかわからないけれど、どこかの部分で誰よりも親密でした。 
ボーイフレンドやガールフレンドよりも親よりも兄弟姉妹よりも友人達よりも。

りょうちゃんと私の関係をたとえれば、なんというか、 
冷蔵庫から取り出した卵をこんこんと割ると、ぱかっと割れて白身と黄身がつるっと落ちていく、そんな感じ、当たり前のことなのです。
なんの不思議もない当たり前のことなのです。

ふたりが一緒に時間を過ごすのはふたりにとっては当たり前のことだけれども他の人にわかってもらうことは困難であるし、 説明は面倒くさいし、 説明すると言っても私達も説明しようがないし、付き合っている人に不要な心配はかけたくないし。
 
よく憶えていないけれど、あの頃ふたりとも誰にもばったり会ったりしないようにうまく時間の調節をしていたのだと思います。

さようならもまた会いましょうもなく大学を卒業し、就職し、そのあと何回か電話で話したり、仕事帰りに新橋で飲んだり、なんてしてたけど、そのうち自然と疎遠になってしまいました。

10年20年、泣いたり笑ったり挫折したり喜びに満ちたりと、色んなことがあっての人生ですが、ま、大まかにざっくり言えば、結婚して親になり、現在に至る、というわけです。

大学時代の共通の友人の結婚披露パーティ (再婚ですけどね、この年になればほとんど) で、りょうちゃんに再会しました。


「よっ!」 
 

二次会の帰り道、
ホテルに入りました。     
(・・こんこん。)

ふたりは黙って
家に着いたかのように服を脱ぎ、    
(・・ぱかっと割れて、)

セックスをしました。       
(・・白身と黄身がつるっと落ちました。)


「最後に会ったの、いつだったけかな、 その後のことから、今日までのこと箇条書きの五行くらいで言ってみて。」

「五行・・・。 私の人生を? そんなに簡単に言えるかなあ。  りょうちゃん、自分の言ってみてよ。」

「結婚した。 会社作って潰れた。 自殺に失敗した。 離婚した。 また事業興した。 再婚した。 つきちゃんに会った。」

りょうちゃんの言葉を頭の中で繰り返す。

「七個だったよ。 私はね、  結婚した。 仕事辞めた。 子供二人生んだ。 恋人が出来た。 りょうちゃんに会った。 ほら、五つ。」

「俺の方が二つ分、密度が濃い人生だったんだ。」

「四つ目の聞こえた?」

「聞こえたよ。」




二度目に言えず、三度目に会った時、もう会わないと告げました。

「恋人のこと、好きなの。」

「俺も再婚したばかりのかみさんのこと好きだぜ。」

「もし他に彼女が欲しいのなら、 私じゃなくても大丈夫、同じよ。」

「つきちゃん、なんだ。」

帰り道、本屋に行こうと、言われました。 
私が、あちこちの棚を散策している間、りょうちゃんは、何か特定の本を探しているらしい様子でしたが、しばらくするとレジに行き、精算すると私の居る所に戻ってきました。
私の顔を見ながら、まっすぐにつかつかと何か怒ったような顔で歩いてきました。

タクシー乗り場までりょうちゃんはずっと黙っていました。
せっかく月が綺麗なのに。 

「ほら、りょうちゃん、満月よ。」

「ああ。」  りょうちゃんは空も見ずに、答えます。


「今日は仕事が残っていて事務所に戻るから送ってあげれない、ごめん。 タクシー代、ここに挟んでおいたから。」
と言って、今買ったばかりの文庫本を私の手に押し付けました。

りょうちゃんの新しい会社はあまりうまくいってないらしいです。 週に三日程は事務所に泊り込んでいるとのだとか。 

「挟んであるところ、見て。 助けて欲しい。 俺がつきちゃんに頼みごとをしたのは、これが初めてだ。」

そうだったと思う。 
何も頼んだり要求したりしなくても、気持良く居られた二人。 
何も求めなかったし、お互いにちょうど欲しいものを与え合っていたのだと思う。 
・・・あの頃は。



タクシーの中で本を開きました。 空の青さをみつめていると

私は噴き出しそうになってしまいました。 
りょうちゃんが 谷川俊太郎!?

無理やり皺を伸ばしたようなお札が挟んであるところ、21ページを開いてみると・・


ぞくっと背筋が寒くなりました。

手を離したら
りょうちゃんは死んでしまう・・・。


りょうちゃんを思う涙なのか、恋人を思う涙なのか、自分を思う涙なのか、なかなか止まりません。

『つきちゃん、なんだ。』 と、りょうちゃんは言ったけれども、 
りょうちゃんは、多分本気で 今は そう思っているのでしょう。


また、落し物をした人に出会ってしまったようです。

谷川俊太郎詩選集 2
谷川 俊太郎著 / 田 原編
集英社 (2005.7)
通常24時間以内に発送します。


オンライン書店ビーケーワン:みみをすます
posted by tsukikohime at 00:20| Comment(2) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月19日

8月19日物語 : 記憶の尻尾

 
その川の幅は小学校の校庭ほどあった。 大量の水が轟々と音を立て流れる様はいつかテレビで見た伊勢湾台風の映像や、大雨の後に溢れ流れる神田川の映像を思い出させた。

母は、その川の遠く向こう側で手を振る。

「早く渡ってらっしゃい。」

首だけ伸ばして川を覗き込む。 たくさんの死体が流れて行く。 私はぎゅっと目を瞑った。

「わたれない。」

「渡れるわよ、こんな小さなどぶ川。」

目を開けると母は可笑しそうに笑っていた。

「落ちたら、死んじゃう。」

「落ちるわけないでしょ。  ほら、早く。」

母は少し前に、川に掛かっている靴の幅ほどの板の上をハイヒールですたたっと5歩程で渡ってしまったのだ。

もう一度、首を伸ばして川を覗き込む。  

ピラニアがうじゃうじゃ泳いでいた。 底の方には、ワニもいるはずだ。 アマゾンにいるやつだ。

「わたれない。 もう帰ろう。ねえ、お家に帰ろうよ。」

「渡れます。」

私はもう母の顔を見れなかった。 涙でかすんでいたからではなく、声の調子から恐ろしく苛ついているのがわかったからだ。 
そんな顔を見たら、私は目が眩んで川に落ちてしまうかもしれない。

「どうするの? 一人で帰るの?」

此処がどこかわからず一人で帰れるわけがないではないか。 さっきまで、銀座に居たことはわかっているが、今どこに居るのか、東京なのか、もしかしたら東京ではないのかさえわからない。

母は出掛ける時、とても優しかったではないか。


「つきこちゃん、このワンピースにする? こっち? この青と白のギンガムチェックが一番かわいいかしら。」

「お母様は、あの黄緑のスカートにしてね。 あのスカート大好き。大人になったらつきこにちょうだいね。」
「それからね、この帽子、このワンピースには子供っぽいと思うの。 麦でできてるのじゃなくて布のがいいと思う。 白くて、うしろに長いリボンがついてるのが似合うと思うの。」

母は嬉しそうに私の姿を眺めると、
「そうね、じゃ、銀座で買いましょう。」と約束してくれた。

「それからね、 このバッグの中に本を一冊入れたいの。 ちょうど入る大きさで、赤い表紙の本が似合うでしょ。」
 
何をおねだりしても許してくれそうな程、母はやさしく笑っていた。 

母は、美しく見えた。  膝丈の黄緑色のスカートは細身で、歩くと膝頭がちらちら覗き、母の綺麗な足の形を引き立てた。

銀座のデパートで白いリポンのついた帽子を買ってもらい、 書籍売り場で本を選んだ。 私の小さな、形だけはおとなっぽいビニール製の真っ白なバッグに入る赤い表紙の本は見つからず、代わりに、 赤い蝋燭と人魚アンクル・トムの小屋を選び、書店の袋に入れてもらった。 
それから静かで少し暗いレストランで大好きなハヤシライスを食べた。  
母は銀色の細い鎖が揺れる腕時計に時々目を落としていた。

「まだお父様との約束の時間じゃないの?」

「まだよ。」

私は、今までに何度かしてきたのと同じように、仕事帰りの父と銀座で待ち合わせをするのだ思っていた。 家族でレストランで食事をし、デパートの中を歩き、時には映画を観る。 
その日、そこに兄がなぜ居ないのかあまり不思議に感じなかった。

どのくらい歩いたのだろうか、途中、違う色の電車にも乗り換えた。 
もう日が暮れそうで私は疲れていた。

「早く渡らないと、足元が見えなくなるから。 早くいらっしゃい!」

「でも、わたれない。」

「渡りなさい!」 母の声はもう叫び声に近かった。

「お父様は? 待ち合わせは? お父様はどこにいるの?」 
状況を先延ばしする為に泣きながら質問する。

「待ち合わせじゃないわよ。 お父様に会いに行くのよ。 お父様に会えなくてもいいの? お兄様にもう2度と会えなくていいの? 会いたいなら渡りなさい。」

事態はもっとひどくなってしまったようだ。

それに、母はなにか、間違っている事を言っている。
 
父は会いに行く人ではなく家に居る人だ。 
外で会うのは、会うのではなく待ち合わせをする為だ。
土曜の夕方に帝国ホテルの前で待ち合わせをして、美味しいものを食べ、手をつないだり、買い物をしたり、肩車をしてもらって、いくつものデパートの紙袋を手に一緒に帰る人だ。  
日曜日の夜には、応接間のソファに母と並んで座り、淀川長治のサヨナラサヨナラを観ている人だ。
兄と将棋を指したりキャッチボールをしている時だけ、(つきこのお父様)ではなくなる。

そういえば、ここのところ、兄も父も見ていない気がする。 
昨日は居ただろうか。 
その前の日は居ただろうか。 
その前の前の日は。  
私は疲れた頭でぼんやり考えた。  
もう何日も何日も 私の横で寝ていた兄の姿はなく、 私は母の隣で寝ていることを 思い出した。母と父が勝手に入ることを許してくれなかった寝室で何故私は毎晩母と寝ているのだろう。
  
 何故、こんな恐ろしい川を渡れと母は命令するのだろう。
 母は私を好きではないのだろうか。
 どうして、こんなに泣いているのに許してくれないのだろう。
 母を怒らせるような悪い事をしてしまったのだろうか。

たくさんの(何故)が浮かぶ。 
私はそれをうまく言葉にする術をまだ持っていなかった。

最近、何かを一生懸命考えたり思い出そうとすると、決まって目の奥と耳が痛くなる。 
奥歯が痛くなり、喉が苦しくなる。そして心臓がどきどきするのだ。
なんだかうまく息が吐き出せなくて苦しくなる。 
そうならないようにする為には、本を読んだり、お人形と遊ぶのが一番いいということを覚えた。
それでも間に合わずどきどきがひどくなる時は、やわらかな人形の腕や足を噛むとラクになることも発見した。


それよりも川を渡らなくては。
この川を渡らなければ父にも兄にも2度と会えず、目の前にいる母の手にも2度と触れることも出来ないという恐怖に慄いた。

川を覗いた。 足を地面から剥がせない。
(お父様に会えない。)
ようやく地面から離れた右足を
川から伸びたいくつもの泥で汚れた手が、掴もうとする。
 


あの時、私は川を渡ったのだろうか、渡っていないのだろうか。 
母はこちら側に戻ってきてくれたのだろうか。 
戻って私を抱いて渡ったのだろうか。 
それとも諦めて私の手を引いて家に帰ったのだろうか。 
私は父や兄に会えたのだろうか。

それとも全てが夢だったのだろうか。


ひとつの短い時間の記憶の中で、鮮明に色や匂いや光りの差し具合まで憶えている部分と全く暗黒の部分とが共存していることがある。 
その記憶は、夢の中で少しづつ成長し姿を変える。 
するとその記憶のストーリーは完成せず、その不完全さゆえに、いつまでも自分の中のどこかに絡み付き、それを抱えたまま大人になってしまう。 


そんな不完全な記憶の苛立ちを抱えたままの人間は私だけではないということを確認するために、本を読むのだろうかと時々思う。

赤いろうそくと人魚
小川 未明作 / たかし たかこ絵
偕成社 (1999.11)
通常2-3日以内に発送します。


 
posted by tsukikohime at 23:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 絵本・童話・詩 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする