あー、 こんなに幸せなら、もう死んでもいい・・・。と、思ったこと、もしくは思わず口からこぼれたことは ありませんか。
あるでしょ? 一度くらい。 安易に言っちゃう人もいますけどね。
贔屓にしている球団が優勝した時とか、 あこがれのアイドルと握手できた時とか、 片思いだと思っていた相手から愛の告白をされた時とか・・・。
こんな幸せな日は、 生まれて初めて。 この幸福な気持ちを抱えたこの瞬間で、時が止まってしまえばいい・・・。
そんな死んでもいいくらいに最高なときに、 望みどおり、死なせてくれる町があります。
そこに引っ越せば、 町の人たちも皆とっても親切でやさしいし、 新参者の貴方を町あげて暖かく迎えくれます。
町の少し高台に広場があり、 そこには鉄柱が一本、立っています。
だいたい2メートル30センチほどの高さの鉄柱で、 途中からL字に曲がっています。 その部分はだいたい1メートルほどで、 先端は輪になっています。
そこに頑丈なロープを結ぶのです。
ロープは、 いつでも誰でも自由に使えるように広場にある倉庫に用意してあります。
「これ以上の幸福は望めない。 今日が我が人生、最高の時。」 と思うのでしたら、
もう、 どうぞ、 どうぞ って感じで 誰も止めないし、 ちゃんと事故や他殺ではなく自分の意志で決行したということを証明してもらう為にも、 町内会で推薦された人が立ち会ってくれます。
あと、ちょっと面倒かもしれないけれど、 遺書に ある文を書かなくてはならなくて、 まあ、短いからすぐ書けると思うのですが、
願わくは 花の下にて春死なむ、 そのきさらぎの望月のころと、
西行法師の作った歌を、自分の遺書に書き足せば良いだけです。
これが、書いてあるかないかで、 町の人たちが出してくれる祭壇の飾り方などお葬式の形式も変わってしまうので、 今までお世話になった町内会の皆さんの為にも、 残された家族の為にも、 幸せのおすそ分けをするつもりで、面倒臭がらずに書いておきましょうね。
自分の名誉の為にもなるのですから。
だって、 人生最高の日を自ら永遠に封印した素晴らしき記念日なんですから。
別に 「いや、まだまだ、私にはこれ以上の幸せな瞬間が未来にあるに違いない。」
と思うのでしたら、 実行を先に延ばしてもかまわないんです。
だけど、 最高に幸せ! と思った瞬間や、 最高にどん底・・ と思う瞬間って、 本当にこれが最高だと思ってしまっているから、 なかなか、冷静に先のことまで考えが及ばなかったりしちゃうんですよね〜。 「今がその時」 なんて思ってしまう。
冷静になりましょうね!
参考までに、 その町の名前は、 「久々里町(くぐりちょう)」
山に囲まれた小さな町でして、まだホームページとかは設けてないようです。
この町について詳しくお知りになりたい方は、
朱川 湊人(しゅかわ みなと) の
鉄柱(クロガネノミハシラ) という小説をお読みください。
朱川湊人さんて、今年の春に
花まんま で、 直木賞を受賞した人です。
出す作品出す作品、 色んな賞の候補作品として挙げられ、実際、賞をどかどか獲っていく作家です。
これからもどんどん秀作を書いていきそうで、楽しみです。
鉄柱 の話は、 第10回日本ホラー大賞短篇賞を受賞した
白い部屋で月の歌を といっしょに文庫に納められています。
私としては、
白い部屋で月の歌を より、
鉄柱の方がおもしろく読めました。 こうね、ちょっとブラックなのってね、好き。
そりゃあね、 嫌なこともいっぱいあるかもしれないけれど、 良いことだってまだまだいっぱいあるかもしれないじゃないですか。 ないかもしれないけど。 生きてみなきゃわからないです。
神様がおいでおいでと言うまでは、 もらった命はきっちり生かさせてもらいましょう。

白い部屋で月の歌を 朱川 湊人〔著〕
posted by tsukikohime at 23:15|
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朱川湊人
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