16歳で直木三十五に抱かれ、 菊池寛、 小林秀雄、 坂口安吾、 川上徹太郎、 大岡昇平、 中原中也、そして青山次郎・・、文壇の男たちに求められ、次から次へと男たちに奪われ続けたムウちゃん。
婚約しては逃げ、 駆け落ちしては駆け落ち先からひとり逃げ帰り、 誘われれば断わらず、 結局は誰のものにもならなくて、 44歳で自死を選んだムウちゃん。
たくさんの男たちに求められるままに体や時間を与え続けても、ムウちゃんには男の身勝手さを確認することにしかならなかったのだろう。 彼らはムウちゃんを欲しがったけれど、ムウちゃんの欲しいものは誰も与えてくれないし、持っていない。 そもそもムウちゃん自身、何が欲しいのかわかっていなかったのだろう。
相手が変わっても、何度確認しても。
だから、もうムウちゃんという女を誰にも攫われないよう、永遠に身を隠したのか。
「ムウちゃんはかかわりのある男や、あった男について話題にすることは一切なかったという。 それは私生活的な話を避けたというよりは、 そもそも彼らに深い関心を持っていなかったように感じられる。」
青山二郎、小林秀雄や永井龍男や、坂口安吾、大岡昇平などの文豪と呼ばれる作家たちがその作品に別名でムウちゃんを登場させているそうだが、真実のムウちゃんに一番近い姿を捉えていたのは、白洲正子や、宇野千代、青山和子たち、女性だけだったのではないだろうか。
妻子や生活があった文士たちは、ムウちゃんを坂本睦子という実名を隠して、事実を自分の都合のよいふうに捕らえて書いた。
小説の中だけでなく実際にも、自分の都合のよいふうに愛していたのだろう。
白洲正子は、 《自殺は、実に見事に、一糸乱れず行われた。 美しい人にふさわしい死に際に、私達は敬意を表するが、 はたしてそれは見掛けほど単純に、 麗しい最期であっただろうか》 と、追悼の文章に書いている。
この時代の文壇の世界に憧れを持っていたであろう久世光彦は生まれるのが数年遅かったからこそ、出会えることができなかったムウちゃんという女のことを書けたのであろう。
ムウちゃん自身が死仕度を進めながら過去を回想しているという形式を取っているこの本からは 久世光彦のムウちゃんへの愛情や、恋の想いが感じられる。
出来るものなら、ムウちゃんに惑わされてみたかったことだろう。
女神 久世 光彦
