台風7号の影響を考えて、予定より現地を早く出発したとのメールが学校から届いた。 今どきは、小学校の緊急連絡も、携帯へのメールなのだ。
海が林間から帰って来た。
そして、明日から空が陸上部の合宿で新潟まで行く。
もう出たり入ったり。
夜も9時を過ぎて、空が言う。
「髪、うざい。 床屋やってるかな。」
「なんで、こんな時間に。」
「ちょこっと切ってくれる? ちょこっとだよ、ここ」
出来るかな? 小さい時は切ってあげたけど。 あの時は、まあ、幼児だったから。
「ちょこっとだよ。」
「わかってるって。」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ
楽しい。
チョキチョキチョキチョキチョキチョキ
楽しい。
「もういいんじゃないかい?」
「まだ、バランスが。」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ
「なんか、シザーハンズの映画、思い出しちゃった。 あの映画、いいよね。 ジョニーデップ、あれでファンになっちゃった。」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ
「ちょっと、鏡見せてよ。 なんか切りすぎじゃないのか?」
「そんなあ。 左右のバランスを整えてるんだから。 それに、作品製作途中であれこれ批評されたくないなあ。」
「作品て・・・。」
チョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキチョキ
「空くん、あのね、(アイフル)のコマーシャル、思い出してきちゃったんだけど・・・」
「鏡、見せろよ!」
空は、私が想像した以上に怒ってるようでした。
もくもくと一人で明日の合宿の荷物を詰めています。
「ねえねえ、髪、一生懸命、切ってあげたんだからさー、やっぱり、『ありがとう』とか、お礼言って欲しいなー。 お礼。」
「お礼!? わかった。 『礼はいつか倍にして、返してやるよ!!』、 言ったよ。」
そうゆうのじゃなくて〜。
「それより、なんか、本! 新潟までバス6時間も乗ってるんだよ!」
「そんな、怒ったみたいな口調で言うことないじゃないよー。」
「あ〜あ、もう、この髪型・・・。」
「えーとね、これとこれなら、持っていってもいいよ。 海は、気持ち悪いって言って、読まないから。」
笑うカイチュウ、藤田紘一郎と、竹内久美子のパラサイト日本人論<ウイルスがつくった日本のこころ>
「寄生虫の話ばかりじゃないか。」 ぱらぱらとめくりながら、空が言う。
「藤田さんは、熱帯医学と寄生虫学を専門とする医学博士で、竹内さんは、動物行動学を専攻して博士課程をへて著述業になった人で、両方、併せて読むとおもしろいよ。 難しい内容じゃなくて、かなり笑えるから。」
「ふーん、お母さん、虫、嫌いなくせに。 特に夏場に出てくる、あの黒くて、てらてらして・・・」
「やめてよね!! それ以上言ったら、泣くからね!!」
「泣けば!!」
怒ってる。


