あと2日だ。
海の中学入試。
2年前の空の時もこんなに気持ちが落ち着かなかったかしら。
空は、塾や小学校(海と空の小学校では96%ほどの生徒が中学受験をする)の他の母親に比べて、どうも自分の母親はへらへらとのんきにしているように見えて仕方なかったらしく、かなり危機感を覚えていたようだ。
「受験生の母親としての自覚ある?」
「はい、あります」
「例えば?」
「あなたの食生活、体調の管理及び時間の管理に大変気をつかっております。」
「うーん」
「他にどうしろと?」
「いやあ、なんかちがうんだなあ」
「どこが?」
「ちがうんだよ、どこかが」
「ま、がんばってねー、アイしてるよー」
「うーん・・・、がんばるよ、もちろん」 と釈然としない顔であった。
で、ずいぶんとがんばったらしく、受験した学校は全部合格した。
海はちがう。
おもいっきり落ち着いているのだ。
中学受験なんて30回くらい経験した事あるみたいに落ち着いているのだ。
「だいじょーぶ、だいじょーぶ、受かるから。」
何を根拠にそんなに自信があるのかわからないが、落ち着き払っている。
空のほうが心配して 「中学受験を甘く見てはいけない!」 と海に言うのだが、 「だーいじょうぶ、だいじょーぶ」 と返されてしまう。
海には私の知らないコネでもあるのだろうか・・・。
あと2日だというのに、昨夜もさっさと寝てしまうし、今日も昼寝している。
「最後のほうなんて平均睡眠5時間くらいだったよ」と空は言う。 夜中に目が覚めて算数の問題をよく解いていたっけ。
もう知らんぞ、あと2日だ。
私が勉強したって仕方ないのだし、気をもんでもしょうがないのだけれども、なんだかなあ。
不安。
不安ではらはらドキドキうろうろ。
だけれども。 だけれどもこの不安、心配、はらはら、どきどきうろうろの膜をはがすと、その下にその膜をぐいぐいせり上げて破けちゃうんじゃないかと思うほどのヨロコビの塊がまんまると控えているのである。
くくくっと笑みがこぼれそうだ。
「ふふふ・・ 受験が終わったら、受験が終わったらー・・・、くくっ」
もう、本をたーくさん読んで、CDをがんがん聞いて、ギターをギュインギュイン弾いて・・。
・・っと、うーん、今もやっているなあ。
そうじゃない、本当に一番おもいっきりしたいことは、わかってる。
自分自身の抱える問題に取り掛かりたいのだ。 まっすぐ向き合って、とことん没頭して悩みの泥の中に身を沈めたい。 気になるあのこと、気がかりな問題、放り出したまんまのあれこれ・・・いつも思考を中断せざるを得なかったし、自分をぐしゃぐしゃにしてしまうわけにはいかなかったから。
2,3日、休暇をもらって泥の中に沈みたい。 ぶくぶくぶく。

本は読んでいます。 読んでいるけれど、さすがにここ数日、気が散る。 残念残念。
読んでいて悔しい。 久々におもしろいものを見つけちゃったのだ。 それなのに受験まであと4日、3日、2日・・と気になってしまって、心の底からこの本に出会えたヨロコビを満喫できない。
う、でも嬉しい。
舞城王太郎(まいじょう・おうたろう)名前は知っていたが、舞城王太郎だったか王城舞太郎だったかどっちだったっけ?くらいの認識で、でもいつか読みたいと思っていた。
舞城王太郎です。
作品名は、
煙か土か食い物タイトルから内容が想像できませんでした。 内容についてはなんの前知識もなかったので、途中から驚いた。
出だしからやけに調子よくチャッチャッチャッと患者を切り刻みチャッチャッチャッと縫い上げる腕の良い外科医、奈津川四郎が主人公で、外科医の仕事はやることもリズムも板前の仕事に似ているなんて言っている。
〈俺は腕がいいからチャッチャッチャッチャッと目の前の仕事をこなしている間にいくつか立て続けに命を助けることがあるので、そうなると自分が神になったような気がしてくる。〉
サンディエゴの病院で睡眠不足でもハイテンションで仕事をこなし仕事の隙間に何人もの彼女と付き合っている様子。
町田康と同じようなリズム感で、のっけからその早いスピードに乗せられて止められない。
その忙しい外科医に日本から連絡が入る。 母親が怪我をしたから帰って来いと言う。
空港までポルシェを飛ばし飛行機で成田へ向かい、ライナーで東京に行き新幹線で米原まで行き特急に乗り換えて福井に入り故郷の西暁に着いたときもまだ手術着を身に付けたまんまだ。
ああ、まさか、これがミステリーものだとは。 途中で気付いて驚いた。
四郎の母は、連続主婦殴打生き埋め事件の被害者となっていたのだ。
「俺が犯人を見つけ出してやる」と素晴らしく回転の速い頭脳で犯人の残した暗号を解析し謎を解いていく。
いやあ、おもしろい!! 退屈しません。
途中、四郎の兄の三郎(作家業)と悪友の愛人うさぎちゃんのこんな会話があった。
「まあね。 サインいる?」
「いらなーい」
「だろうね。 君はどんな小説読むの?」
「えっウサギ? ウサギはねー
村上春樹とかー
町田康とかー」
「二人とも立派な作家やんか」
「でも
町田康は阿呆みたいだよー」
「うーん。 あれはわざとあんなふうに書いてるんであってやねー、
『くっすん大黒』なんか、ドライヴ感凄えと思うけどなー」
舞城王太郎の
煙か土か食い物は、デビュー作で第19回メフィスト賞を受賞した作品です。
受験生の母、付き添いの為、体調万全にするために早めに寝ます。
海ちゃん、大丈夫かなあ、頼むよ〜。
もっと読みたい!!
