2006年05月28日

5月28日物語 : 気をつけてください

これはまずい。 最悪の二の舞だ。 
止まらない。 500ページ以上あるぞ。 睡眠なんてどうでもいい。 

オンライン書店ビーケーワン:サウスバウンド

サウスバウンド  奥田 英朗  2005.6  角川書店

語り手は小学6年生の上原二郎。
読み始め、思春期に差し掛かった少年の成長譚なのかなと思った。 描写もセリフも活き活きとしていてそれだけでも読ませる奥田英朗だけれども、この長さにはきっとわけがある、絶対どこかで引きずり込まれるぞ。 
ほらほら現れた、破天荒な元過激派という父親・一郎が登場。

おもしろくなりそうなんてもんじゃない。 また寝かせてもらえなかった。


年金も税金も払わなくていい。 租税のおこぼれで生きている体制に雇われた官は虫より嫌いだ。 学校も行かなくていい。  学校なんて、 体制側にとって都合のいい人間を作るための催眠術みたいなものなんだ。 いつの時代も学校は矯正施設だ。 と、独自の論理を展開し、 修学旅行費が高い、費用明細を全保護者に対して明らかにしろと息子の通う小学校に怒鳴り込む。

学校が大好きな二郎にとってはいい迷惑だ。 気になる女の子もいるし、友達と遊ぶのも大好きだし、 不良中学生には脅されるし、 子供世界の中の複雑な人間関係だけでも精一杯だというのに、 余計な問題を起こす父親に二郎はうんざりしている。

第一部は東京・中野での生活の話で、 第二部は沖縄での生活の話になるのだが、そこでもこの父親は派手な問題を次々に起こしていく。
住民や環境保護団体、警察、マスコミなどを巻き込み、 日本中のテレビの前の野次馬的視聴者を楽しませることになる。
東京に居たときと明らかに違うのは、 近隣の住人との関係だ。
澄んだ海と青い空、大らかな島民たちの中で、 一郎は水を得た魚のように活き活きと動き出す。
最初、冷ややかな目で見ていた二郎なのに、いくつもの出来事を通して次第に父親の男として、人間としての魅力に惹かれだしていき、 父親を誇りに思うようになる。 そして読者である私もじゅわじゅわと一郎に惚れこんでいってしまった。

奥田英朗の長篇はたいがいそうなのだが、話が進むにつれ登場人物のキャラがどんどん際立ってきて、作者自身にも止められないんじゃないかというほどに活き活きと動き出し、その魅力を振りまく。
どうやってこんな魅力的なキャラを作り上げてしまうのだろう。

奥田英朗の本は寝かせてくれない。 気をつけてください。  
posted by tsukikohime at 10:26| Comment(6) | TrackBack(1) | 奥田英朗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月16日

5月16日物語 : ララピポ


オンライン書店ビーケーワン:ララピポ

ララピポ  奥田 英朗  幻冬舎



これね、この表紙のカバー、 2重になっているんですよ。
どう見てもえっちな絵が、 鍵穴型にくり抜かれたところからちらっと覗いているんです。 表側の黒いのをめくれば全容が見えるんですよね。
そうすると、 このちらっとえっちなのが広がりを見せるのか、 それともだまし絵みたいになっていて、 期待した人にあははって照れさせることになるのか、 どっちかだろうなと思うのですよ。 

私は本屋さんで平積みされているこれを見て、 「あ、奥田英朗だ!」 と手に取ったのですがね、 かなり卑猥な絵のように思いまして、すぐ置いてしまいました。  人目を気にしたんですね。  だからもちろん一枚目のカバーをめくって下の絵の全容を見ることができなかったわけです。

図書館で借りようと。

リクエストを出しておいて、 今日、巡回するバスの移動図書館の人が持ってきてくれたんですがね。  図書館の本ですよ。  だから透明なビニールカバーがピシッとかかっているんですよ。  めくれないんですよ。

いや、ね、 その絵の全容がどうしても見たかったわけではないんですがね。 
奥田英朗ですからね。 読みたかっただけなんです。  こうやって言い訳すればするほどね、 疑わしさが出てきちゃうもんだなあ、なんて書きながら思いました。  しかし、 鍵穴ね。  オーソドックスだけど、 やっぱり鍵穴なんでしょうね。  覗きたくなるのが人情というものでしょう。

どうして、今日、こんな文体になっちゃうのかなあ。  そう呼ぶのかどうか知りませんが、 「言い訳文体」 ?

さて、(コホン)
これには、6つのお話が入っていまして、 連作というのでしょうか連携プレー短編とでも言うのでしょうか(そう呼ぶのかどうかも知りませんが)、 それぞれのお話の主人公が別の話では脇役になり、 脇役が別の話では主人公になっています。

第1話 WHAT A FOOL BELIEVES
第2話 GET UP, STAND UP 
第3話 LIGHT MY FIRE
第4話 GIMMIE SHELTER
第5話 I SHALL BE RELEASED
第6話 GOOD VIBRATIONS

全部、 歌のタイトルからきてるのかな?

総題の ララピポという意味はようやく6話目でわかります。

1話目。 どうしようもなく情けない男が出てきます。 笑えます。
2話目。 どうしようもなく情けない男が出てきます。 情けない人間シリーズなのだろうか。
3話目。 どうしようもなく情けない女が出てきます。 不気味です。
4話目。 どうしようもなく情けない男が出てきます。 怖・・。
5話目。 どうしようもなく情けない男が出てきます。 あらら。
6話目。 どうしようもなく情けない女が出てきます。 あ。

あ。 わかった。 
どうしてこんな装丁にしたのか。 すごく納得。

これは表紙のカバーがめくれないままの状態でもO.K.なんですね。
posted by tsukikohime at 21:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 奥田英朗 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月24日

2月24日物語 : 東京物語


奥田英朗の自伝的小説。 東京物語

奥田英朗は作家になりたくて上京したわけではなく、とにかく東京に出てきたかった。  東京で一年の浪人生活を経て大学入学、家業の倒産により、中退。 コピーライターとして同級生よりも一足早く会社勤めをしてバブルの波に乗り・・。

自伝小説は、その作家のほかの作品を読んでからのほうがいいかも、と思う。

これはこれで面白いが。


順序が行きつ戻りつある連作短編になっている。

◆ あの日、聴いた歌   1980.12.9
◆ 春本番          1978.4.4
◆ レモン          1979・6・2
◆ 名古屋オリンピック  1981・9・30
◆ 彼女のハイヒール   1985.1.15
◆ バチェラー・パーティ 1989.11.10

年代順に行けば、 
@ 春本番・・・1978.4.4・・・ 主人公、田村久雄が名古屋から上京した日だ。 そして右も左もわからない東京の町を人恋しくてうろうろしているうちに後楽園球場で行われたキャンディーズの解散コンサートに遭遇する。

A レモン・・・1979.6.2・・・ 一年の浪人を経てなんとか御茶ノ水に校舎がある大学の文学部にもぐりこむことが出来た久雄はこの日、桃井かおりきどりの同級生、小山江里と蕎麦屋に入る。 江里は「わたしのことを “エリー”と呼んで」などという。 いとしのエリーのエリーだ。
蕎麦屋のテレビではこの日江川卓のプロ入り初登板の中継をやっていた。

B あの日、聴いた歌・・・ 1980.12.9・・・ あの日だ。 そう、 ジョンレノンが射殺された忌まわしき日。 大学を中退した田村久雄は広告代理店で新入社員として、昼飯を取る暇もなく忙しく働いている(こき使われている)。 

C 名古屋オリンピック・・・ 1981.9.30・・・ まだ22歳の久雄だがすでに部下も持ち仕事も波に乗っているところ。7年後のオリンピック開催地が名古屋になるかソウルになるか決定する日だ。 名古屋出身の久雄にとっては大関心事だが、周りの人達にとってはそんなに大きな問題ではなく、久雄には面白くない。

D 彼女のハイヒール・・・ 1985.1.15・・・ 新日鉄釜石と同志社大学のラグビー日本選手権の日。 久雄は母親の策略で同郷の女性とお見合いをすることになるのだが。

E バチェラー・パーティー・・・ 1989.11.10・・・ 友人のバチェラー・パーティーに出席する久雄。 バチェラー・パーティーというのは、結婚を前日に控えた男性が独身最後の夜を女抜きで騒ごうというパーティーのこと。 しかし主役である友人はそのパーティーになかなか現われない。 この日はベルリンの壁が崩壊した日。 東西ドイツが統一した記念すべき日である。
その映像を見ながら30歳になったばかりの友人が言う。
「青春が終わり、 人生が始まる、か」


少し親切すぎるほどにその時代を思い起こさせる流行の音楽、映画、車、事件などキーワードが散りばめられていて、その点についてはしつこさがまぬがれないですが、同年代の人にはなつかしいでしょう

小説と違って脚色が少ない自伝では、奥田英朗のおもしろさが存分に味わえなくて物足りなかったです。

奥田英朗未経験者はぜひ他の小説から! 

ところで表紙の絵は20代の主人公、田村久雄(奥田英朗)を
描いているのだと思いますが、
表紙をめくったところにある著者の近影写真の広ーいおでこの部分に
つい手を当ててみてしまいました・・・。 
ごめんね奥田さん。

オンライン書店ビーケーワン:東京物語  東京物語  奥田 英朗著  集英社
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2006年02月10日

2月9日物語 : ビタミン注射


精神科とか神経科にいちど行ってみたほうがいいかな。

って思ったことあります?  私、あるなあ。  でも、行ってヘタに病名などつけられてしまうと病名に囚われて却って症状が悪化するのではないかしら、と思って二の足を踏んでしまう。

ひと昔前に比べれば、「どうもウツみたいでね」 「安定剤を飲むと眠りやすいよ」 などと、精神科に通うことをカミングアウトする人も増えてきたし、「風邪は早めの治療がいいのよ」くらいの感覚で気軽に行く人も多くなった。

現代では、誰しもみな少しは病んでいるのだ。
「私は完璧に健全で常に安定した精神の持ち主です」 と胸をはって言える人などどのくらいいるのだろうか。


以前にもちらっと書いたけれど、 奥田英朗空中ブランコ

奥田英朗・・おくだひでお って読みます。

イン・ザ・プールに続く、伊良部という名の精神科医を主人公にした連作で、色んな症状の患者とのやりとりがひとつづつ短編になっている。

奥田さんは、 『最悪』 、 『邪魔』というクライム・ノベルでブレイクした作家ですが、空中ブランコやイン・ザ・プールはユーモア小説です。

最悪は長編なのですが、先が読みたくて読みたくて私を寝かせてくれませんでしたねえ・・・。

幅の広い作家だと思います。


精神科医、伊良部のもとを訪れる患者はさまざま。

患者・・・・・ サーカスの空中ブランコでパートナーと息が合わなくなってきて
        それを全面的に相手の責任だと思っているサーカスの団員。  
伊良部・・・・ 「サーカス? なんて名前? 近くでやってるの?」 
        「行く、行く」 「行こう、これから行こう」

患者・・・・・ 尖っているものを見ると膝ががくがく震えてしまう尖端恐怖症のやくざ
伊良部・・・・ 「ところで、ぼく、一回でいいからピストルを撃ってみたいんだけどね」
        「セッティングしてよ。 鉄橋の下あたりで」

患者・・・・・ 義父のカツラをむしり取りたくなったり、大勢の人の前で何かとんでも
        ないことをしでかしたくなる強迫神経症の神経科医。
伊良部・・・・ 「原因がわかれば簡単だ。 やっちゃえばいいんだから。
         そうすれば治るよ」
        「やろうよー。 教授のヅラ。 面白いじゃん」

患者・・・・・ 一塁へ送球するのが怖くなったプロ野球一軍のベテラン三塁手。
伊良部・・・・ 「受付から聞いたけど、坂東さん、プロ野球の選手なんだって?
        だったらもらってきてくれないかなあ、イチローのサイン」
        「治るよ、そのうち。 まさか反対方向に球が飛んでいくって
        わけでもないし。 せいぜい90度以内の誤差でしょ」
        「やろう、やろう。 キャッチボールやろう」

患者・・・・・ 小説を書こうとすると、過去に書いたことがあるネタなのではないかと
        不安でたまらなくなり執筆に取り掛かろうとするたびに
        片っ端から自分の作品を調べてしまう強迫症の女流作家
伊良部・・・・ 「要するにむかつくことがあると、ほんとに吐いちゃうわけだから、
        むかつく原因をはっきりさせればいいわけよ」
        「それが仕事なら仕事を止める。近所付き合いなら引っ越す。
        対人関係なら消えてもらう」  
        「一服盛るなら薬の銘柄ぐらい教えてあげるよ。 えへへ」


なんにでも興味を持ってやってみたがる子供みたいな医者だ。
注射針が患者の皮膚を通る瞬間が大好きでじっと凝視する。  とりあえずビタミンを打っておくね、と毎回注射をする。 

患者は皆、はじめは不信感を持って二度とこんな医者のところなんか来るものかと思うのだが、なぜだかまた訪れてしまうのだ。  こいつこれでも本当に精神科の医者か? と思いながらもカバのような容姿の伊良部医師のもとに行ってしまう。

患者の生活にずかずか入り込んできてそれとなく患者に原因を思い当たらせ(伊良部医師にはそういう深い計算などなく、ただずかずかと入り込んでいる)、患者はそのカバみたいな無邪気な伊良部を見ているうちに、気持ちが開放的になり症状が改善されてしまうのだ。


私も伊良部医師と同じで、注射針が自分の皮膚を通る瞬間をじっと見るのが好きなので、毎回、ビタミン注射をしてくれるという伊良部総合病院の神経科なら、行ってみてもいいかなあ。
でも伊良部医師がおもしろがって興味を持つような職業に就いてないから、よく眠れる薬(安定剤)くらいしかもらえなさそうだわね。

安定剤なら普通の内科でもくれるし、それを飲むと本当にがくっとよく眠れる。 睡眠剤は一切入っていないのに。
不安定な何かが私を不眠にして、安定剤で安定したのねと思ったが、本当にがくっと眠ってしまうので、時間を逆算して飲まないと大変なことになります。 
私は昔、ジャングルジムのてっぺんで寝ていたことがあって、医師に確かめたのですがまったく睡眠剤は入っていないという。 それから量を減らしてもらったのですが、今度はお見舞いに訪れた恩師の家の居間の畳の上で7時間も眠ってしまい、恐ろしくてやめました(恩師は私を放って寝ていました)。 本当にいきなりがくっとくる。

重大な症状の人はともかく現代病ねと言われるくらいの人なら、この本は閉じていたものを開かせ、こだわっている事を放らせ、少しラクにしてくれるかも。 笑うのも健康に良いですしね。



 オンライン書店ビーケーワン:空中ブランコ 空中ブランコ 奥田 英朗著 2004.4 文芸春秋


 
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2005年09月30日

9月30日物語 : 延長戦


『今日、逢えますか?』

『大丈夫ですけど、怪我のほうは? 心配です。」

『かなり痛みますが支障ないですから。』


私はその時 奥田英朗 のエッセイ、 延長戦に入りました を 読んでいた。 
表紙の写真に意味深げな写真が使われているが、内容と全く関係ない。  

なんたって奥田英朗が書いているのだ、 笑いを期待して読み始めた。  
ちょっと気になってはいたがわざわざ深く考えることもないだろうと通り過ぎていたようなスポーツに対する素朴な疑問や感想が奥田英朗のえぐるような視線で書かれている。  
えぐるようなというか・・普通つっこまないところをつっこんで書いてるので、笑えます。

スポーツするのもスポーツ観戦にも興味がない私なのに、おもしろかったです。

例えば

* 格闘家の信念と小心者の世渡り

* レスリングのタイツはなぜ乳首をだすのか

* スポーツのがに股と女子選手の葛藤

* ボブスレーの前から2番目の選手は何をする人なのか?

* ジャイアント馬場が本当に強かった1960年代

* 運動部の不潔と青春の勲章

* 日本の正月と駅伝中継高視聴率の秘密

など34篇。


『このまえみたいにあんなに痛がっているのを見てしまうと・・・。  完治してからのほうが良いのでは?』

『痛くても、逢いたいんです。 どうか逢って下さい。』

『わかりました。 今日はお茶か、お食事だけにしてくださいね。』

『はい。 頑張って我慢します。』

待ち合わせは赤坂見附になった。 家から一時間近くかかりそうだから電車の中で続きが読めそう。

 
私と知り合ってから昔やっていたあるスポーツを再開してしまったマサユキさんは、度々怪我をする。 普段は会社を経営しているのだから、ジムに通う時間もあまり取れないのではないだろうか。
私より一回り近く若いといっても、あれはかなりハードなものではないかしら、と想像する。
この間は左側の肋軟骨で今度は右側の肋軟骨だそうだ。
若い頃から何度も折っているので、折れ易くなっているのかもしれない。

「私、何も知らないので失礼を承知で聞いてますが、あれはスポーツなんですか?」

「スポーツというよりショーですよ。 筋書きがあるんですから。」

「折れてしまうのも筋書きなんですか?」

「相手が熱くなってしまうとね。 そもそも熱くなる性格の人はあれをやっちゃいけないんですよ。」

確かにマサユキさんは とてもアレをやっているように思えない静かな性格の人だ。 ジョークさえ滅多に言わない。

スカパーで観れますよと言われても観戦チケットをあげますよと言われても 私は観ない。

誰がやっていても、例えそれがショーだと言われても、観るのは怖い。  
まして、マサユキさんの試合なんて。  想像をはるかに超えている。


「本当に大丈夫ですか?  我慢してくだされば良かったのに。」

「逢ってしまうと、やっぱり無理です。」

「だから、完治してから逢いましょうと言ったんですよ。」

「そんなこと言っていたらいつまでも逢えません。  しょっちゅう折ってますからね。  肋骨は、折れてももう放っておくしかないんです。 安静にしてるしかないんですよ。」

「これは、安静にしている状態に思えないんですが。」

私はマサユキさんを見上げながら言う。

「上半身はわりと安静ですよ。」

でも、この腕・・・ 

私は顔を左に右に動かしてひとつは肩のあたり、もうひとつは私の頬の横にあるマサユキさんの両方の二の腕の筋肉を、見る。 そして汗の粒が光る胸に目を落とす。

痛そう。


帰りのタクシーでマサユキさんは胸を押さえた。  額に汗が滲んでいる。

「大丈夫ですか?」

「はい、ちょっと・・。」

「やっぱり痛むんでしょ?」

「骨がずれたかな・・」

「えー! どうしましょう! 病院に行きましょうよ、このまま。」

「つきこさんの帰宅時間が遅くなりますから、先に送ってから病院に寄ってみます。」

「私、別の車で帰りますから。 もう、マサユキさんたら。 どうして早く痛いって言ってくださらなかったの?  途中でも止めれたのに。」

「途中では止めれませんよ。 延長戦に持っていけても。 それに夢中になっている時は、どうってことのない程度の痛みだったんですよ。 不思議ですね。」

本当にもう。  いつも静かに話すしほとんど敬語だし冗談も滅多に言わないのに、時々私を赤面させるようなことをさらっと言う。
赤くなると嬉しそうな顔をするので、 多分からかわれているのだと思う。  くやしい。

「折れた骨の先が内臓に刺さったらどうするんですか!」

「なかなか刺さるもんじゃないですよ。」

「今度から肋骨が折れたら3週間は逢うのは禁止です。」

「そんな・・・」

「お食事だけと言うのもダメです。 マサユキさん、絶対それじゃあ済まないんだから。」

大きな体のマサユキさんが子どもみたいにしょげてしまった。  きつく言い過ぎたかしら。
ちょっと可哀想になってしまった。

「そんなこと言わないでください、つきこさん。」 

情けなさそうな声で言ったマサユキさんはチラッと運転手の方を見ると、 「それならば・・」 と私の耳に口を寄せて、その続きを言った。

「こういうのはどうでしょう。 つきこさんがね、 ××に××って××を××××で×××・・・」

私はおもわずマサユキさんの胸のあたりを持っていた本でバシッと叩いてしまった。

「うっ。」

「あ、ごめんなさい!」

オンライン書店ビーケーワン:延長戦に入りました
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2005年07月19日

7月16日物語 : あやしいのとあぶないのとブランコとプール

 
休みが始まった。

いつものように5時に起きて、洗濯機をかける。
 
昨夜のうちに、煮含めておいた油アゲに味が滲みている。
炊き上がったご飯を、さわら材の飯切りにあけ酢を回しかけ団扇でぱたぱたと扇ぎ余熱を取る。
シラス干しと白胡麻、昨年漬けた紅しょうがを細かく刻んだものを混ぜる。アゲの袋を破かないよう丁寧に広げる。破れないようにご飯を詰めていく。 

おいなりさん、30個出来上がり〜。 どうしてこううまくご飯の量とアゲの数が合ってしまうんだろう! 伊達に主婦を長くやっているわけじゃないです〜、なんて、ひとりでご満悦。

それから、ハムときゅうり、ゆで卵をマヨネーズで混ぜたもの、 マーマレードとスライスチーズの3種のサンドイッチを2斤分作る。 

それぞれが個々の用事や事情で、起きるのも、食べるのも、出掛けるのも、帰って来るのも、ばらばらだ。 これだけ揃えておけば、各自好きな時間に食べれるし、弁当としても持っていけるし、なんといっても私が何度もガスレンジの前に立たなくて済む。 掃除や洗濯の合間に、時々流しに溜まった食器を洗うだけ。

カレンダーを見て、三人のスケジュールを確認する。 最後の一人が出掛け、最初の一人が帰って来るまでに、私が一人になれるのは約2時間半。

『J.に13時に来れる?』

『待ってました!』

13時10分

「こんにちわ〜、家族は?」

「息子は部活、娘は塾、ダンナは、うーん、不明。 サコんちは?」

「全員、不明。」


「ね、何読んでる?」

「ん、色々。 サコは?」

「ん〜。 何がいい?」

「ご気分は?」

「疲れている。 集中力がない。 面倒なのは嫌。 考えさせられるのは、きつい。」


サコは新刊も中古も、私より買うくらいだが、たいがい私に丸投げする。

店頭で、ぱらぱら見て良さそうなもの、前から興味があった事柄について書いてあったもの、気になっていた作家のものなどを、わりとまとめて仕入れる。 

しかし、家に帰っていざ読もうとするとどれから読んでいいのかわからなくなる。 

読み出して、もし今の気分に合わなかったら、せっかく読みたかったものでも途中で読む気がしなくなり、そしてそれっきり途中で止めた印象だけが残り、次に手に取るのが、ずうっと後になってしまうのが、もったいないと言う。


で、私に丸投げする。 本を渡し、受け取る時の私たちは、なんとなく悪代官と越後屋のようだ。


「へっへっへ…、 良いものが手に入りましてね〜。」 


奥田英朗は?」

「え! 最悪? 嫌よ、私、途中で読めなくなったやつでしょ。 あの頃、とっても最悪の状況だったんだから。 今もあまり変わらないけど。」

「違うわよ。 あんなの今のサコには読めないわよ。 最後まで行けばすっきりするけど、そこまで絶えられないわよ。 それじゃなくて、 空中ブランコ。それか、 イン・ザ・プール 持ってたでしょ。」

「最悪じゃなーい?それ。」

「全然違う。 笑える。 ちょっと 志賀貢あやしい患者さんとかあぶない病院長風だけど。」

「何、それ? 知らない。」

「そう? うん、でも、それより、ラクな気持ちになれる話なの。なんだかラクになれるよ。笑いたいだけなら、そういうふうにも読めるし。」

「ふうん。 じゃ、それにしようかな。」

「今、思いつくのは、その本かな〜。 でも今のサコには、最善だと思いま〜す。」

オンライン書店ビーケーワン:空中ブランコ空中ブランコ
イン・ザ・プール
奥田 英朗著
文芸春秋 (2002.5)
通常2-3日以内に発送します。

 
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2005年07月18日

7月14日物語 : 本は枕にはなりません

眠い。 

今朝方、読んだいしいひさいちほんの本棚の中で、家に買い溜めてまだ手を着けてない本が何冊かあった。
 
その中のひとつ、奥田英朗の 最悪を手にした。 かなり厚みのある単行本である。 これを読みながら少しお昼寝をしよう。
 

…と考えたけど、甘かった。
 
読み進むうちに私はベッドの上に起き上がってしまった。 

寝ながらじゃあ、読みにくいじゃない!

ベッドは座っていると安定しない。ベッドから出て、本の字を追いながら階下に降りる。
コーヒーメーカーをセットするのももどかしく、読み続ける。

なにこれ。本当に、 最悪 じゃない。

どこまで読んでもどこまで読んでも 最悪 な事態が続く。 

三分の一読んでも、半分読んでも、三分の二読んでも、まだまだ 最悪

これじゃあ、お昼寝どころではない。 私は睡眠不足なのだ。 早く気持ちを落ち着かせて寝かせてほしい。

落ち着く展開になったら、ひとまず閉じて寝よう。

あと残りわずか。 そろそろ最悪から、脱しないと、この本、終わっちゃうよ。
 
え? 上下巻だっけ?
表紙を見る。 …違う。
だって、残り数ページじゃない。

安堵が欲しい、安堵が欲しい。


全部、読んでしまった。 最悪。 面白すぎ。

憎たらしい …奥田英朗 。

最悪
最悪
posted with 簡単リンクくん at 2005.11.20
奥田 英朗著
講談社 (1999.2)
通常2-3日以内に発送します。
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