2007年07月14日

7月14日物語V : あなたには帰る家がある

あなたには帰る家がある

それは、家庭持ちの相手に家庭持ちではない片方が言うセリフ。
でも、家庭持ちが家庭持ちに、「あなには帰る家がある」と
言ってしまいそうな瞬間がある。

自分にも帰る家があるのに
自分のことは棚に上げて
「またね」 と手を振るとき
「おかえりなさい」 を言えないことをあらためておもうとき
言葉を飲み込むために
あなたより先に背を向ける改札口



山本文緒著  

妻とはまったく違うタイプの女性。
夫にはない感性を持った男性。
ふたりが惹かれあって恋に落ちて。

自ら夫にバラして男の胸に飛び込む女。
妻の前に平然と現れる女をみて動転する男。

ふたりの恋の始まりと結末はよくあるパターンなのに、
ふたりがなぜ惹かれあってしまったのかを
周りの事情から攻めて書いてあって、
それでそれでどうなるの? 
いつ堰を切ったようなことになるの?
いつゲキテキになるの?
と野次馬的気持ちで読んでしまいました。

だって、やっぱ、連れ込むのうまいんだもん、山本さん。
posted by tsukikohime at 21:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本文緒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月27日

12月27日物語U : 落花流水

夜更かしなど無理が利かない体になった私は、昨夜久しぶりに夜更かしをしてしまったため、今日は爆睡しようと心に決めていましたが、あまりのピカ晴れに飛び起きてしまいました。 
洗濯! ふとん干し! 掃除!!  カーテンも洗っちゃおう!!
主婦の生活は漁師のそれと似ているような気がします。 
天候によって何をすべきかが決まるのです (身体をはってまでではありませんが)。

さて、これが例のあの握力測定器です。

                  ↓

               握力測定器



万歩計とは違って、おもちゃのようなものもなく、家庭用や携帯用や健康器具用にもなく、学校等で測定するあれしかないそうです。
思っていたほど大きくはないけれど、がっしりと丈夫で重みがあり、持っているだけで握力だけでなく、二の腕をひきしめるにも良いんじゃぁないかと。
しかしやはり、足の上に落とすとけっこう痛いです。

なぜ年に一度のクリスマスに、握力測定器をサンタさんに願ったのか、娘の気持ちは計り知れませんが、 「他に欲しいものはない」というので、仕方ありません。
子供の願いを力の限り聞き届けるのがサンタの使命ですから。
嫁に行く時は嫁入り道具のひとつとしてぜひ持っていってもらいたいと思います。

落花流水
なんかすてきな響きの4文字言葉。
「落花」と聞いてまず浮かぶのは、太平記の「落花の雪に踏み迷う、片野の春の桜がり」 (ああ、美しい文章!)
でも、「落花流水」というのは、相思相愛の男女のことを言うらしい。
落花に情(男に女を思う情)があれば、流水にもまた情(女にも男を慕う情)が生じる、という意味だそうで。

「落花情あれども流水意なし」 という片思いさん仕様の表現もちゃんとあります。

この本の場合、「相思相愛」という意味ではなく、文字通り 「落ちた花は、流れのままに身をまかすしかない」 という意味なのかもしれません。

オンライン書店ビーケーワン:落花流水  
落花流水  山本 文緒著  1999.10  集英社

山本文緒というよりは、桐野夏生っぽい気もしましたが、そういえば山本文緒だって、どろどろしながらしたたかに生きる女性を描くのはうまかった。

母を失くした7歳の少女がそれまで姉と信じていた人が実の母だったということを知り、その姉(実の母)と暮らし始める。
男にだらしない母を軽蔑していた主人公は望んで平凡な結婚をしたものの、自分もやがて夫と娘を捨て幼馴染みと駆け落ちをしてしまう。
捨てられた娘もまた・・みたいな血は争えないなあというお話です。
いろいろ苦労したって、やっぱり女ってしたたかねえ、という感想でした。

きっと現実にも似たような話はあって、歴史は繰り返してしまうのでしょうか。
例えば、母親を殴る父親を見て育った息子が、そんな父親を軽蔑していたはずなのに自分も結婚してから妻に同じように暴力を振るってしまうとか。
反面教師として見て育ってくれればいいのに、「暴力もアリ」という選択肢も学んでしまうのかな。

どろどろの物語のはずなのに、笑ってしまうくらいあっけらかんとした終わり方で、なんだかすがすがしい気分にさえなった私は読み方を間違っているでしょうか・・。

章によって語り手が変わるという構成が山本文緒の得意技だとは思いますが、さすがにうまくて飽きさせません。 

ストーリーの好き嫌いはあるかもしれませんが、山本文緒の巧さを知るにはうってつけかも。


 
posted by tsukikohime at 23:27| Comment(4) | TrackBack(0) | 山本文緒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月21日

7月21日物語U : 選択肢


群青の夜の羽毛布 (←触ると過去の記事に飛びます) を貸していた友人がその本を返しにきて、 ぺちゃくちゃとあの本がいい、 この作家がいいなんておしゃべりして、 やっぱり山本文緒はすごいよね。 この本もすごかった。 うん、 すごかった。  あのほらあそこのところ。  ここここ。  ほらまさかこうなるとは。  え、それ、そういう意味だった?  そうでしょ、違う?  だってほら、 最初のほうのこの言葉。  ああ、あーそうか。 でも、そう?  ん〜。  ちょっともう一回読みたくなった、 貸して。  いいけど、読んだばかりでしょ?  でも、結末がわかったうえで、 あらためてまた読みたくなった。
と、 また持って帰っていってしまいました。  Sちゃん、あなたです。

ちょっとちょっと山本文緒にはまだまだおもしろいの、たーくさんあるのよー!
じゃ、次に来たとき、 どれか、貸して。
りょーかーい。

さて、どれにしようか、と棚からてきとーに手に取ったら、 それは 
ブルーもしくはブルー
開いたとたん、 しまったー!  そのままその場でいっきに最後まで読んでしまった。
再読。
ストーリーも結末もわかっているのに、 え、どうなるのどうなるの (だから、わかってるのにー)と、ページをめくるのももどかしく。

オンライン書店ビーケーワン:ブルーもしくはブルー

ブルーもしくはブルー  山本 文緒〔著〕 角川書店


29歳の蒼子は6年前に2人の男性と付き合っていた。
ひとりは、 料理屋の板前をしている2歳年上のやんちゃ坊主のような河見。
裏表のない性格だが、 嫉妬深いところがあり、そこが少し恐い気がする。
郷里の福岡にいる父親が倒れたので、 いっしょに帰ってくれないかと頭を下げられた。
もうひとりは、 広告代理店に勤める都会的でスマートな佐々木。 いつも温和な笑顔を浮かべ清潔感がある。 ただベッドにいる時でさえ、 よそゆきの顔をしているように感じるのだが。

どちらも同じくらい好きで、 どちらを選んでもどちらかを捨てたことを後悔しそうだった。

悩んで悩んで結局、蒼子が選んだのはどちらだったのか。 

蒼子Aが選んだのが、 佐々木。
蒼子Bが選んだのが、 河見。

東京に、佐々木蒼子がいて、 博多に河見蒼子がいる。

悩んで悩んで悩みすぎてそんなことになってしまったらしい。

と、ここらへんまあ、不思議な現象なんですが、 2人はばったり出会ってしまう。
ドッペルゲンガーなのかとか、 どちらかが本体でどちらかが影で、 どちらかが死ねば片方も消えてしまうのか、 などという恐怖も折りこまれつつ、 とにかく蒼子Aと蒼子Bは、6年後にばったり出会ってしまう。
最初はもちろんあまりのそっくり具合に気味悪がって、 そのうち幼馴染みに会ったみたいに (当然です、 ふたりは途中までひとりの人物だったのだから) きゃあきゃあと共通の昔話で盛り上がったりするのですが、 しだいに お互いの選んだ生活がどんなものなのかとても興味が湧いてくる。 

余るほどの自由(時間と金銭)を持ちながら夫に振り向いてもらえない東京の蒼子Aは心の拠り所を欲しがっていて、 両腕の中から出すことを嫌い、 お前さえいればいいんだ、 ふたりでいることが全てだと強く愛されている蒼子Bはそれを束縛に感じている。

ふたりの蒼子は、 お互いに出会ってしまったおかげで自分の心の奥底の不満や願望に向き合うことになってしまったのだ。

彼女達の独白を聞いてみましょう。

河見蒼子・・・河見との生活は、 東京で暮らす蒼子から押しつけられたものであるとも言えるのではないか。  二台ある自転車のぴかぴかの方をあちらの人が先に乗って行ってしまったので、 自分は仕方なく残された錆だらけの自転車に乗って人生を走っているのではないだろうか。

佐々木蒼子・・・私は選び間違えた。 きれいな見かけに騙されて、 私は欠陥車を選んでしまったのだ。  埃をかぶっていたもう一台の車こそ、 人生を快適に走り切る性能のいい車だったのだ。

自転車や車にされちゃってますね。

そこでふたりは一ヶ月の約束で入れ替わってみることにしたのだ。
ファンタジーはホラーに、そしてサスペンスへと・・・。
もうひとりの蒼子を殺してしまうしかない、というところまで行きます。


稲森いずみが蒼子役になってNHKでドラマ化されていたようですが、 どうも小説とはラストが違うらしいですね。 

歴史に「もしも」はない、と言いますが、 もしもあのとき・・なんて、思ってみてもどうにもならないですよね。 ここにいる自分が今日までの結果なんです。
思ってみるくらい、いいじゃないのー! 
思ってみるくらい、いいかもしれませんが、 思ってみたくなる時って危険なときかもしれない。 蒼子たちは体験してしまいました。


別の道を選んだ自分がどこかで生きていたとしたら、 
もう、 勝手にそっちはそっちでやっててください。  
こっちはこっちでやってますから、です。
たとえば、 アイルランドでアイリッシュの夫と牛の乳を搾っていたり、 刈りたての羊の毛でセーターを編んでいるつきこさんがいたとしても、 つきこさんはつきこさんであって、 感じていることや考えていることに大差ないと思うのよ。
どうでしょうか? 

読む人によって、いろんな受け取りかたができ、 刺激されるところが違うから、
本っておもしろい。
posted by tsukikohime at 16:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本文緒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月21日

6月20日物語 : ね。

精神的に強いのは男性かな、女性かな。
男女で分けるべきではないのかしら。
でも、カラダの構造がそもそも違うから。
女性の方がね、カラダ、複雑ですよね。
そうゆうところと、精神的なものとつながってること多々あるもの。
鬱病にかかるのも圧倒的に女性が多いんですって。

オンライン書店ビーケーワン:シュガーレス・ラヴ

シュガーレス・ラヴ  山本 文緒  2000.6  集英社

ずいぶん前に読んだ覚えがあるのだけれど、 それは1997年に単行本で出たもの。 
先日本屋さんで文庫を見つけてもう一度読みたくなり、 購入。
裏を見ると、 2004年6月の刷で、第13刷だって。 
すごいね。 増刷。 増刷。 読まれてるんだなあ。 

話は違うけれど 「増刷」 という文字を見ると 長嶋有 の話を思い出してしまう。
ファンに 「長嶋さんの好きな言葉を書いてください」 と言われ、 「本当にいいんですね。 好きな言葉を書いて」 と確認してから 大きく二文字 『増刷』 と書いた話・・。

山本文緒に戻ります。
えーと、そうそう、精神的とかカラダのつくりとか、そうゆう話ね。 ストレスとか。

山本文緒の本は読めばなんだって薦めたくなってしまうのだけれども、 この短篇集ももちろん良いです。

心療内科に行くほどではない (まあ人によっては行ってみようかなと思うかもしれないけれど) ストレスからくるカラダの不調や、 カラダの不調から来るストレスを題材にした短篇が10篇。  
それぞれ別の話で、 女性がその病にかかっていますが、 語り手は女性だったり男性だったりします。
山本さんの話では、 男性が語り手や主人公の時、 私はたいがい 「いいなあ、この男の子」 って思ってしまう。

この短篇集は、あれこれ言うよりタイトルを並べたほうが、読む気をそそるかな。

・彼女の冷蔵庫 ― 骨粗鬆症
・ご清潔な不倫 ― アトピー性皮膚炎
・観賞用美人 ― 便秘
・いるか療法 ― 突発性難聴
・ねむらぬテレフォン ― 睡眠障害
・月も見ていない ― 生理痛
・夏の空色 ― アルコール依存症
・秤の上の小さな子供 ― 肥満
・過剰愛情失調症 ― 自律神経失調症
・シュガーレス・ラブ ― 味覚異常

(彼女の冷蔵庫) では、しくんと泣けちゃいました。
(ねむらぬテレフォン) は、恋する女性ならとてもわかる話。
(月も見ていない) は、 生理前のいらいらで、 スタンガンでムカつく男たちを襲う話。
(観賞用美人)は、美人すぎて男性の視線が集まりすぎてしまい、 トイレに行くタイミングを失ってしまい便秘になっちゃう話。

思い当たる人、 いますか?

カラダは正直ね。 ちゃんと悲鳴をあげる。

ストレスの原因を取り除くのが一番良い治療だけれども、 どうしても取り除くわけにはいかない原因がほとんどだから、 どうやってそのストレスと付き合っていけばいいかを、 自分で工夫しなければならないですよね。
  

いろいろあるよね・・。 ね? みんな!
 
posted by tsukikohime at 01:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本文緒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年05月02日

5月2日物語 : 火に油


胸も尻も少年のように平坦で、 髪も爪もきっちり切り揃えられていて、 とてもセックスアピールがあるとはいえない容姿のさとるに、 鉄男は恋をした。
しょっちゅう貧血は起こすし、 おどおどとしていて神経症で対人恐怖症気味。  10時の門限はかたくなに守る。 でも、最初のセックスはさとるのほうから仕掛けてきたようにも思えるし、 それについては積極的だし、 なぜか上手い。  ふっと口を閉ざしたり、 鉄男の友達ともうまく馴染めず、 会話の途中で急に目に涙を溜めたり。

鉄男は女性にもてる。 何故だか女の子に不自由したことが無いのだ。
どの子とも、 真面目に付き合ってきたつもりだ。  週に一度のデート、 一日おきの電話、 イベントにはプレゼント、 そして避妊も忘れない。
誰かと付き合うことになれば、 まず何度か映画を見て食事をして酒を飲む。
彼女はきっとディズニーランドに行こうよと言うだろう。
天気のいい休日に鉄男は車を出し、 湾岸を走ってディズニーランドに向かう。
一日はしゃいで遊び回り、 夜はどこかで抱き合うのだろう。   そういう成り行きが嫌いなわけでもない。
眩暈がするほど嫌なのは、 鉄男が想像したとおりに事が進むことだった。

そんな鉄男は、 どこか普通の女の子とは違う掴み所のないようなさとるに恋をしてしまった。

実は、 これは、 鉄男の恋の物語ではありません。
家族の、 家族だからこそ起こり得る恐ろしい愛憎劇です。

オンライン書店ビーケーワン:群青の夜の羽毛布  
群青の夜の羽毛布  山本文緒  幻冬舎


ある日、 鉄男は車で事故を起こしてさとるを門限までに送ってやることが出来なくなった。 必要以上にびくびくとしているさとるを家まで送っていくと、 さとるの母親は 「夕方に帰って来る約束だったでしょう。 それに門限は何時なの。 何のために時計をしてるの」 と激怒してさとるを殴るのだ。
「遅くなったのは僕のせいです」 と頭を下げる鉄男などには目もくれず、 めちゃくちゃに娘の頭を殴る。 「や、やめて下さい。 僕のせいなんです。 さとるさんは悪くないんです」 という鉄男の頬までも叩き、 泣きじゃくるさとるをずるずると引きずってドアを閉めてしまった。

少しずつ明かされていく母と娘の断ち切れない陰湿な関係。 奔放で明るい振る舞いの妹のみつる。 そして父親は?

合間にカウンセリングを受けている誰かの会話が何度か挟まれているのだが、 いったいそれは誰なのかなかなかわからない。 
さとるなのか、 ひょっとして妹のみつるなのか、 常軌を逸したような怒りを見せる母親なのか、 はたまた鉄男なのか、 居るのか居ないのかまったく姿の見えない父親なのか?  
私の予想はくるくる変わり、 はずれて、 やっとわかったと思ったら、 カウンセラーまでもが意外な人物で、まさか・・そんなぁ!

山本文緒 の書くものには一度もがっかりさせられたことはないけれど、 これは、かなり・・すごい。

若干22歳のなかなかの好青年鉄男は、 24歳の恋人さとるをこの恐ろしい母から救い出してくれるのだろうか、 それとも恐れをなして逃げ出してしまうのだろうか。

あーあ、 鉄男ったら、 なんであんなことしてしまうのよ。 
どなたか鉄男の行動を説明(代弁)してくださるかた、 いませんか? 
posted by tsukikohime at 23:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 山本文緒 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月20日

2月20日物語 : プラナリア

タイトル買いをしてしまうのってたまにありますが、私だけではないと思うのですが、どうでしょう。

プラナリア

プラナリアって、なに?  もしくは、プラナリアって、あーあれねとわかっても、ではそのプラナリアというタイトルで、どんな小説になっていくのだろうと興味がわくかもしれない。

タイトルって重要ね。 一番のキャッチだもの。

プラナリア[Planaria]  三岐腸目のプラナリア科に属する扁形動物の総称。 
  体は扁平で、口は腹面中央にある。  体長20〜30ミリメートル。
  渓流などにすむ。 再生の実験によく使われる。     「大辞林」 第二版より

23歳のときに乳がんで右胸を取ってしまった25歳の女性が主人公だ。

次に生まれてくる時はプラナリアになりたい、と言う。

「・・・とにかく切っても切っても生えてきちゃうなんて、馬鹿みたいでいいじゃない。 ほら私、乳がんでしょ。 だからそういうもんに生まれたら、取った乳も勝手に盛り上がってきて、再建手術の手間とお金が省けたなーって思ってさ」

そんなことを言って盛り上がっている飲み会の雰囲気を盛り下げてしまって、ボーイフレンドに、
「もう自分で自分の病気のことを言うの、やめなよね。 そんなんじゃルンちゃん、本当に友達無くすよ。」 などと、やさしく諭される。

ちゃんとした恋人だった方の男は、病名を伝えたあとに尻尾を巻いて逃げていってしまったが、 「酔った勢いでやってしまった仲だった」 ほうの彼は、 「私と私の家族に混じって一緒に泣いてくれ、 暴れて手がつけられない私に毎日会いに来てくれ、 根気よく慰めてくれ」て、右胸が無くなった今も 「変わらず私を愛してくれる」

気を使ってくれる家族と優しい彼氏がいて幸せなことだと思うのだけれども、本人もわかっているのだが、どうしてもわがままになりひねくれてしまう。  何もかも面倒くさくて社会復帰に興味が持てない。

                     プラナリア


プラナリアって知ってる? と中二の空に聞いた。

「知っているよ、生物で習った」

この小説にこんなふうに書いてあるんだけど・・と本を見せた。

「たとえばみっつに切っても、それがいつの間にか再生して三匹になっちゃうんだって。 三匹どころか十個に切り分けても、 とかげの尻尾みたいににょきにょき育って十匹になっちゃうんだから」

すると、
「切り方によるんだよ。 例えば真ん中で切っても、半分にたたんで鋏で切って広げた折り紙みたいになっちゃったりね。 口がふたつの生物になっちゃうこともあるし、口なしで切られたほうは、口がない体が反対側にできて、口がないからすぐ餓死しちゃうんだよ」
と、教えてくれた。

「つまり、切ったところに鏡を置いて映った姿みたいなの?」

「そう。 そういう場合もあるし、尻尾の先っぽを切ればそこだけ再生するのもあるし。 切る場所によりけりかな。」

「なんか不気味な生物ね」

「ぶっちゃけ、元の姿もこんな形」 と絵を描いてくれた。

「まあ・・・」

「ここの頭のところに縦にちょこっとメスを入れると、頭だけふたつ出来る双頭の生物になってしまうし、二本メスを入れると三つ頭が出来ちゃったりするんだ」

「この本の主人公、生まれ変わったらプラナリアになりたいんだって。 空くん、なりたい?」

「やだよ、そんな大脳のないヒワイな形のやつなんて」



もちろん、主人公の女性も本気でそんなもんになりたいわけではないのですが。
どうして私が乳がんに・・とひねてすねていじけて露悪趣味的に 「あんたたちは、幸せそうでいいわよね、私なんて乳がんでさー」 を言いたいがためのきっかけ話として、プラナリアを持ち出しているのだ。

この本の中には、「プラナリア」の他に、「ネイキッド」、「どこかではないここ」、「囚われ人のジレンマ」、「あいあるあした」と5つの短編が入っています。  この話はいいけど、これはいまいちだなというのがひとつもなく、どれも秀作。
プラナリアが直木賞受賞なら、他のだって取れるのでは?というくらい。

私は、最後の「あいあるあした」が一番好きです。

山本文緒は、タイトルの付け方がヘタだなあとひそかに私は思っていて、タイトルを見ただけでは手を引っ込めてしまいそうになることが多いのですが、読めば内容はそれを良い方に裏切ってくれて、うーん、読んで良かったあと思うものばかり。 

今回はプラナリアというタイトルが多くの人の気を引いてくれるでしょう。 初めて山本文緒を手に取った人もここに収められている他の短編に触れて山本文緒のファンになり、それを友人に口伝えて結果プラナリアみたいにファンが増殖していくといいなあと私は期待しております。
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2005年12月03日

12月3日物語 : 夫婦はホラー


自分でまいた種とはいえ、 僕は妻が恐ろしかった。


・・・という出だしはすごく先が読みたくなります。 なんだかわくわくっとしてきちゃった。

山本文緒 の 紙婚式(かみこんしき) という結婚をモチーフにした短篇集で、

・ 土下座

・ 子宝

・ おしどり

・ 貞淑

・ ますお

・ バツイチ

・ 秋茄子

・ 紙婚式


の8つの短篇からなります。


この短篇を読む前に、 同じく山本文緒 の きっと君は泣く という作品を 手に入れていたのですが、 「きっと君は泣く」 なんて言われてもねえ・・、 そんなこと断言されてもねえ・・ とタイトルに抵抗感があって読んでいなかった。

だけれども 紙婚式 を読んだら、 続けて きっと君は泣く も読んでしまった。


紙婚式 が 良かったからだ。
私の好きな 乃南アサ と タイプが似ていたのだ。


友人は、 乃南アサ の短篇は 松本清張 の書く短篇に似ていると言っていたけれど、 私は もう20年くらい 松本清張 を読んでいないからよくわからない。

しかし、 紙婚式 の 解説で 島崎今日子 が こんなことを書いている。


   本当のところ、 これを最初に読んだときに私は、 突拍子もなく、 「松本清張の短編だ!」と思ってしまった。


松本清張 と、乃南アサと、 山本文緒 の短編は、 やはり似ているのだ。


文体が似ているのではありませんよ。  


ごく平凡な日常の中における人間の心の奥に潜む小さな歪みや怖さ、 それがじわじわっと染み出てくる恐さ。  ひとつひとつは小さな綻びなのに、 それがいつしか繕いようのない大きな破れになっていく・・・ そんな不気味さをユーモアを交えて書くところが、 似ています。


他人からみても平凡で普通で、 本人たちも 「まあ、うちはわりと平和なんじゃない?」 というようなところにも、 小さなホラー は、 いくつも潜んでいると思う。


自分も含めて、 人間って怖いなあと思う。

そして数ある人間関係の中で 「夫婦関係」 が一番、 ホラーだと思う。

だからこそ、 多くの作家は 「夫婦」 を題材に作品を書くのだろう。
  

例えば 唯川恵 だと、 ここまで怖さが書き切れない。

唯川恵だと  ”絵空ごと”感 が強いのよね、と思いながら読んでいたら、 きっと君は泣く の解説が 唯川恵だった。 

唯川恵さんは、 山本文緒の友人でありファンでもあるそうだ。



オンライン書店ビーケーワン:紙婚式紙婚式 山本 文緒〔著〕

オンライン書店ビーケーワン:きっと君は泣くきっと君は泣く 山本 文緒〔著〕
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