2年ほど前に近くに永住型老人ケア施設ができて、 週末になると早朝から何台もの自家用車やタクシーが我が家の前を通ってやってくるようになり、 車があまり入ってこない場所だっただけに少しがっかりしていたのだが、 近頃めっきり訪れる車の数が減った。 その代わりに夜中に音を消してやってくる救急車の数が増えた気がする。
近所に大きなテニスクラブがあり、 夕方に友人と本の貸し借りなどでそばのファミレスで待ち合わせていると、 どやどやと60代〜70代とおぼしき男女取り混ぜたテニスウェア姿のグループがやってくる。
夫婦らしきカップルは混ざっておらず、 席決めあたりから楽しそうな歓声が聞こえてきたりする。
と思えば奥のほうの席でひとりで食事をする80代くらいの老女もいたり。
コンビニで一人用の惣菜のパックを買っている歩くのも危なっかしい老人。
近頃、すごく目に入ります。
やたらと見てしまいます。 わたしが気にするようになったからでしょう。
近頃、っていつ頃からだろう。
きっと、下の娘が中学に入ってから。 つまり今年から。
小学校のときは、まだ下に幼稚園生の弟や妹がいるような母親もいたのに、 中学に入ったとたん、 中高一貫校というのもありますが、 上の子が大学生や社会人、 嫁に行っただの、 中には初孫まで出来ただの、 の話題が聞こえてきて、 全体的に父母の年齢がぐっと高まります。
子供の学年が上だからって親の年齢も上、とはもちろん限らないのだけれども、かたまりとして見れば平均的には上で。
とにかく、娘が中学生になってからというもの、なんか自分がいっきに老けた気がしてきました。
わたしの想像力というものは、 極端なところがあって、 どんどん先へ先へと進み、あれよあれよとふくらみます。
しかしどう想像してみても現実的にその年頃になってみないと、本当のところはわからないもので。
そんな折に、 桐野夏生の魂萌え!(たまもえ)という本を読みました。
主人公は59歳の主婦の敏子。
夫の葬式(享年63歳)の場面から始まります。
アメリカに行ったきり10年近くも音沙汰もなかった35歳の長男が、 はじめて見る嫁と2人の幼子を連れて帰ってきて、 葬儀の夜に、敏子に言う。
日本で古着屋でもやろうと思って。 店を出すには最初はやりくりが大変だし、 家賃を払うどころじゃないし、 お母さんもひとりで寂しいだろうし、 俺たちがいっしょにここに住んであげるから、 暇なお母さんが孫たちの面倒を見てくれれば生きがいも出来るだろうし、 将来は長男のこの僕がお母さんの世話をするっていうことで。
それを聞いた31歳でボーイフレンドと同棲をしてコンビニでバイトしている長女が言う。
お兄ちゃん、狡いよ。 ちゃっかりこの家を乗っ取る気? それを言うならあたしにだって権利はあるんだからね。
ひと月後、 敏子の高校時代からの女友達が3人で敏子の様子を心配して遊びに来る。
彼女たちはくちぐちに、 子どもたちの言いなりになって財産を取られてはダメだからね、 まだまだ若いんだからね、 などとアドバイスをしてくれる。
ずっと専業主婦をしていて世間知らずな敏子を心配しているのだ。
そこに、 夫が生前に通っていた蕎麦打ち教室の師匠の今井が現れた。
夫は夜、家の風呂場で倒れて亡くなったのだが、 その日の昼間は今井の家で蕎麦を打っていた。 毎週木曜日に通っていた教室だ。
倒れたときにすぐに救急車を呼んでいれば、 夫は助かったかもしれない。
前から心臓が弱っていたかもしれないのに、 妻として気づいてやれなかった。
そんな後悔に苦しんでいた敏子は、 夫が最後に行った蕎麦打ち教室での様子を今井に訊ねるのだが、 今井の口から意外なことを聞いてしまうのだ。
夫はその日、いや、今年は一度も蕎麦打ち教室には行っていなかった。
昨年も5,6回しか来ていなかったと言うのだ。
では夫は毎週、蕎麦打ち教室に行くと言って、 どこに行っていたというのか・・・。

魂萌え! 桐野 夏生著 2005.4 毎日新聞社
夫に死なれて喪失感いっぱいだった世間知らずの敏子に次々と襲い掛かる現実の厳しさ。
泣いて悩んで苦しんで悲しんで寂しがって笑ってキレて萌えます!
敏子、59歳。 がんばれ〜!!
ちなみに土曜21時からNHKで、 同タイトルでドラマ化されてます。
今週が2回目です。
小説と少し違う設定もありますが、 俳優さんたちのイメージがとても小説に近い。 とくに敏子役なんてぴったりです。
今週はどうやら初萌えするらしいです。



